イノセント
「私から一言、いいだろうか?」
父上が発言を申し出た。
国王の申し出を断る理由は無い。
父上はわざわざ処刑台の上にまで登ってこられた。
「私はこの先 数年のうちに正式に退位するつもりだ。
丁度 還暦と重なる2年後を想定としている。
私の跡取りは2人。
VictorとAbel、彼等のどちらかが国王になる運命にある。
その跡取りを決めるための競技会を行うことをここに宣言する。
しかし、今日 ここでVictorが処されるならば この競技会は意味を成さない。
そこでだ!」
父上は剣を抜き、私に向けた。
父上に剣を向けられるなんて 初めてのことだ。
ゴーンー
ゴーンー
ゴーンー……
12:00を示す鐘が、私の死を告げる鐘が鳴った。
父上は私の髪を剣で斬り裂いた。
抗力を失い、重力のままに落ちた毛束。
股下まで伸びていた髪が襟首の殆どが出るくらいにまで 短くなった。
「このことで 今 この瞬間までの彼は死に絶え、代わりに国王を目指す青年 Victorが生まれた。
そのようには扱ってはもらえないだろうか?」