イノセント
驚きと戸惑いが隠せない。
父上が私に生きる道を提示してくださったことが信じられない。
私は確かに父上の顔に泥を塗るような真似をした。
それを許してくださるとでも言うのだろうか。
「……父上、発言してもよろしいでしょうか?」
恐る恐る、父上に話しかける。
「何だ?」
「Abelの……我が弟の面目が立たないのでは無いのでしょうか?
確かに先程までの私は父上の手によって殺されました。
そして、新しい道を歩むとしたとしても 私が奴隷であり、死刑囚であったことに違いはありません。
そんな私と戦うのでは、Abelの面目は立たないように思われます。」
トンッーという軽やかな音と共に ステージ上に現れたのは 弟 Abel。
「変に兄さんに気を遣われる方がよっぽど嫌だね。
俺はこの申し出を認可した。
でも、兄さんが認可しないのなら……」
Abelは私の首元に剣を突きつけた。
「弟である俺が責任をもって 兄さんの死刑を遂行する。
父さんの手にかかるか、俺の手にかかるかで 兄さんの未来は変わる。
勿論、決定権は兄さんにある。」
両極端すぎる話だ。
そして、私にとって 得しかない取引。
こんな好条件、父上を選ばないわけがない。
けれど、本当にこのようなことは許されるのだろうか。
「私はまだ死にたくない。
やり残したことだって たくさんあります、これからやりたいことだってたくさんあります。
ですが、ただそれだけの理由で私が生を選び 再び国王を目指す道を歩むことは許されるのでしょうか?」
「お前が決めるんだよ、Victor。」
父上の言葉に頷いたAbel。
「私は国王になりたい、幼い頃から父上の姿に憧れていました。
一度はその双肩にかかる重圧を恐れ、断ることになってしまいましたが、それでも、やはり、私は国王になりたい。
……私にもう1度 国王を目指させてください。」
父上の……現国王の顔をひたと見つめ、決心を口にした。