イノセント
「……父上、わざわざ面会に来て下さり 有難うございます。」
頭を下げた。
この方を父上と表現するのは正しかっただろうか。
私が獄に入る前、家族としての縁は切られているのに。
「久しいな、Victor。」
"えぇ" と応えながら 話題を探した。
しかし、獄の中 国内外で起きている物事についての情報は入ってこないし そもそも時間すらも分からない。
……季節については 仕事で外に出た際に多少は分かるが。
「最近の調子はどうだ?」
「……へ?」
素っ頓狂な声が出てしまい、思わず謝った。
真逆 そのような質問が飛んでくるとは思わなかった。
「欲を言える身分ではございませんので、明確なことは言い兼ねます。
……国の方はどうですか?」
「順風満帆、と言ったところか。
国際問題についてはAbelがよくやってくれている。」
「そうですか、近頃は飢えに苦しむ人を見る機会も減ったように思います。
Velumondo様やAbelの政治の歯車が噛み合っているのが よく分かります。」
"そうか" と呟いた父上。
「お前は私を怨んでいるか?」
そう聞かれると、黙り込んでしまう。
どのような答えを父上が望んでおられるのかが計り兼ねる。
「……と仰いますと?」
「自身が獄中に居ることについてだ。」
「……父上のご意向に背いたのですから 仕方のないことだと思っております、」
「それがお前の本心か?」
何も言えなかった。
父上の意向に背いたとは言え、奴隷の身分にまで堕ちるとは思ってもみなかった。
もし仮に過去に戻ることができるのであれば、私は数年前の自分に即位を断らないよう強く訴えたい。
……今の生活が良いものだと思ったことなど一度足りともない。
「答えられのないならいい。」
会話が途切れてしまった。
気まずい時間が2人の周りを漂う。
「その……今日はどうして 面会に来てくださったのですか?」
「あぁ、それはお前の処分が決まって……」
そこまで言って 父上は口籠もった。
でも充分な程に解ってしまった。自分の行く末が。
「……私は直に処されるのですね。」
目の前が眩んで見えた。
震える手を抑えた。
父上がこんな所にまで脚を運ばれたのは 最期に一目見ておこう、という親心か。
「……今日はこれで帰ることにする。」
立ち上がった父上。