イノセント

「お待ち下さいっ、父上!
父上は、私のこと どう思っていらっしゃいますか?」

最期ならば尚更、一度でいいから聞いてみたかった。

幼少の頃から 叱られてばかりだった私だから、良い印象など持たれていないことは百も承知。

それでも、父上にどう思われているのか ずっと知りたかった。

少しでもいいから父上からの愛を感じたかった。

「……私の顔に泥を塗った元王子。
今、この瞬間にでも 消え去って欲しい。」

その言葉は私の身体に重く のしかかってきた。

そして、私は下を向いた。

父上が私に消え去るよう仰ったから せめてもの気持ちで。

「……そうですよね、申し訳ありません。
要らぬことを訊きました、申し訳ありません。

御多忙の中 わざわざご足労頂き、有難うございます。

最期にまた貴方様の様子を見る事が出来て 光栄です、では 御気をつけて。」

早口になってしまった。

これ以上、先のない私の為に父上の時間を割いて頂くのは申し訳無く感じたから。

早く1人になって 現実をしっかりと受け止めたかったから、という方が大きいかもしれないが。

「顔を上げなさい、Victor。」

父上の声で顔を上げる。

「息子として 愛している。
こんなところで終わってしまうなんて、哀しいね。

もっと、自由な立場だったなら こんな結末を迎えずに済んだのに……」

久方ぶりに聞いた父上の、血の繋がりのある親からの言葉に一筋の涙が頬を伝った。

「私は、国王である父上の元に生まれて来ることができて 幸せでした。

なので そのようなことを仰らないで下さい、親よりも先に生を終えるなんて……親不孝なことをしてしまいます、申し訳ありません。」

「……では、時間だ。
私は帰るよ、最期に顔を見ることができて本当に良かった。

冥福を祈っているよ。」

「……ありがとうございます。
さようなら、どうかお元気で。」

父上は静かにその場から離れた。

その姿をしかと目に焼き付けた。
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