イノセント

その日の晩餐は些か豪華なものだった、恐らく これが最後の晩餐となるのだろう。

そう思うと怖くて食事が喉を通らなかった。

「もう、結構です。」

半分も食べられないまま 食事を終えた。

夜はあまり眠れなかった。
怖くて、怖くて、ただひたすらに 怖くて。

人間は死後どうなるのだろう、など考え込んでしまったが 結局何の成果も得られなかった。

ただ明日が怖くなっただけだった。

ほぼ一睡もできないままに陽が昇る。

起床時間になり、看守が私を起こしにくる。

私の様子がいつもと違うからか それとも最期だからか、些か丁寧な扱いを受けた。

整列させられ、脱獄者が居ないかの確認が為される。

その後 いつも通り牢に戻ってから朝食を摂った。

朝食まで豪華だった。
いつもはない焼菓子やフルーツといったデザートの数々。

昨日の晩餐も残したのに 朝食まで残すのも申し訳ない、そう思い ひとまず完食したが その後便所で全て戻してしまった。

それから、1時間もしないうちに

「V、来い。」

と呼ばれた。

看守の元へ向かう脚は相変わらず重い。
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