生きていくこと
朝ご飯のあと、桜井先生が回診に来て「変わりない?今日からこの階の中なら自由に動いていいよ」と許可が出た。




回診が終わって、やることもないから外に出てみた。


まだ新しい白衣に身を包み、初々しい仕草で患者さんと廊下を歩く看護学生らしき姿が。




あー、私もほんの少し前までそっちの人間だった。なんて考えていたら、後ろから
「ことはちゃん!」と名前を呼ばれた。
振り返ると、上野先生。




「上野先生!どうしたんですか?」




「ベッドコントロールで、うちの患者さんがここにいるから。サチュレーションが下がったとかでコールがあってね。今落ち着いたところ。ことはちゃんに会って帰ろうと思ったら、病室にいなかったから、探してみた」




「そうなんですね。私も上野先生に会いたかった。」




「あれ、ことはちゃんは本当に僕のことが好きだね〜。桜井先生とはちゃんとお話しできた?」




「先生とし、て、は!ですよ。
桜井先生、説明の後も気にして来てくれたし、お話しも少しできました。でも診断も確定してないし、病気のことは話せる範囲も狭いから。」




「そんなに強調しなくてもいいじゃん。そっか、よかったよかった。そうだね。それはこれからだね。
ことはちゃん、看護学生だってこと言った?先生、言おうか迷ったけど、言わないでおいたよ」




「現役看護師じゃないし、言ってもなにも変わらないと思うし、必要になったら言おうかな」




「ことはちゃんがそうしたいなら、先生はそれでいいとおもうよ。」




お母さんのこと、はなそうかな…
「ねえ、先生?病気のことじゃないけど話したいことがあるんです。……こんど聞いてくれますか?」




「もちろんいいよ。今すぐにでも聞きたいところだけど時間がね。また来るよ」



そう言って先生と別れた。
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