生きていくこと
─次の日
検査の結果も出揃ったので両親へ説明が行われた。




「それでは、はじめますね。様々な検査の結果から、心不全の原因は特発性拡張型心筋症だと判明しました。拡張型心筋症というのは、4つある心臓の部屋のうち、とくに全身に血液を送る左心室と呼ばれる部屋の筋肉が薄く伸びて、ポンプの機能が下がる病気です。それによって今回の心不全がおきたと考えています。」




母「特発性……」




「特発性というとは、原因が明らかでないということを言います。カテーテル検査で冠動脈の狭窄はみられず、他に原因となる疾患も見受けられませんでした。
今後の治療についてですが、現在、心不全は治療が奏功し、落ち着いていますし、弁の閉鎖不全も重症ではないので心臓の負担を減らす薬や水分制限など内科的治療で対処していく方法が良いかと思います。」




父「街なかで心臓移植のための募金活動をしている子たちの病気も、拡張型心筋症ですよね。娘もいずれ必要になるということですか?」




「拡張型心筋症は、根本的な治療法は心臓移植しかないのが現状です。しかし、今回のように心不全で拡張型心筋症が見つかり、内科的治療を続けることで、制限がある中でも学校生活やお仕事をすることが可能なこともあります。病状はその患者さんひとりひとりによって様々で、一様に必ずしも心臓移植が必要になるわけではありません。
しかし、状態が悪化すれば、救命のためには心臓移植も必要となります。ただ心臓移植は必ずしもやらなくてはならない、ということではありません。移植は受けず、自然の経過をみていくという選択もあります。」



母「…………」涙を流して沈黙
父「そうですか……。自然の経過をみる、というのは、つまり……、そういうことですよね。でも今は、移植とかそういうことではなく薬で治療できるんですね?」




「はい、現在の状態なら薬での治療が可能です。
ただ、お辛い話ばかりになってしまいますが、この病気は薬でうまくコントロールできていても、致死性不整脈といって危険な不整脈が突然起き、突然死のリスクがあることは覚えておいてください。その早期発見のための検査は外来でも行っていくことでフォローしていきます。」




母「突然死なんて……。そんな…」
父「………。とりあえず薬の治療、よろしくおねがいします。
ことはにはどこまで話したらいいか、考えてしまいますね。」


母「ことは、看護学生よ。きっと私たちより詳しいわ。変に隠すのは、良くないわ。」
父「そうか…」




「……迷われることだとおもいます。ことはさんは看護学生さんなんですね。心筋症について専門に勉強をされているわけではないと思いますので、どこまで知っているかは測れませんが。……移植、というワードはショックの大きいものではあります。今の時点では必ずしも視野に入れるべきものではありませんから、今回はあえて触れず、病状や治療についてお話しする、というのはどうでしょうか」



母「そうしてください。娘は成人はしてますが、いくつになったって、こんな思い病気、簡単に受け止められません。」
父「そうだね。そうしていただきたいです。私たちも同席します。」



「承知しました。」
< 32 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop