dolce*

前の人が座り、みんなの視線がこちらへ向く。

机を見つめたままスっと立ち上がる。

この空気が苦手だ。


「椎名葵です。すぐそこの五中出身で、中学の時は吹奏楽部でした。入りたい部活は決まってません。一年間よろしくお願いします。」

クラスメイトの拍手がパラパラと起きた。


高校入学すぐのLHR。鉄板の自己紹介。

家から近いという理由で決めた高校だが、同中の人は案外少ない。


中学の時中の上くらいのグループに所属していた私は、高校ではどうしても、所謂『一軍』に入りたかった。

理由は単純。都合が良いから。

高校では毎年クラス替えがあるため、一年間薄っぺらい上辺だけの関係を続けておけば学年が上がった時にも支障が出ないことがわかっていたし、なにより悪い意味で目立ちたくなかった。

全員の自己紹介が終わり、自由時間になった。

「ねぇねぇ!」

話しかけてくれたのは後ろの席の子。

サラサラの髪を下ろして右の耳にかけており、顔も可愛い。

一軍だな、と確信した。

「私、舞桜!舞うに、桜って書いて、まお!名前、教えて!」

「椎名葵。アオイでいいよ。」

やけにテンションの高いその子に圧倒された。

声が大きく、クラス中に聞こえていたようで、戸惑っていた子たちがだんだんと集まってきた。

「アオイかぁー可愛い名前だね!」

「そうかな、ありがとう。ねぇ、舞桜って呼んでもいい?」

「いいよ!よろしくね!」

語尾に星がついていそうな喋り方だ。


ともかく、これで一年間は保証された。

よくやった椎名葵!!と心の中で自分を褒めた。



その時の私は、舞桜がどんな子かなんて解っていなかったんだ。
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