宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔の家系は元をたどれば鬼族の祖。

故に家業はもちろん様々な事業にも手を出し、妖の中で最も裕福で名の通った家系だ。

家業の百鬼夜行に対してもちろん反発する者たちも多い。

こうして出歩くと、人を食う系の妖は特に百鬼夜行の主である朔を目の敵にして襲ってくることもいわば日常茶飯事だ。

だがそこは雪男が常に目を光らせているため、朔が刀を抜くことはほとんどない。


「おお朔。よう来てくれた」


「お祖母様…急にあんな文を寄越されては困ります」


「なんじゃなんじゃ、初っ端から妾に文句か?おお雪男もよう来た。早速だが妾の肩を揉むがいい」


部屋に入るなり絡まれた雪男が苦笑いすると――部屋に居た女たちが一斉に呆れ顔の朔に注目したのが目に見えて分かった。

六、七…八人も居る。

皆が皆豪華な着物を着てきれいに化粧をして、扇子で顔を隠しながら朔を凝視している。

まるで肉食獣に見つめられているような気分になった朔は、姫君たちと目を合わさないようにしながら上座の潭月と周の前に座った。


「お久しぶりです。お元気にしておられましたか?」


「おお、俺の息子の息子よ、俺たちは元気にやっているとも。お前こそ大事ないか」


「ええ、恙なく。恙なく過ごしていましたが…お祖母様の文のせいで気が滅入りました」


「だいぶ前だが妾はそなたに姫君を紹介すると言い、そなたは楽しみにしていると言った。ほれ、そこな姫君たちは由緒ある家柄の子女ばかりじゃ。ゆるりと話すがよいぞ」


――朔が振り返ると、興味津々に朔の細いが精悍な後姿に見惚れていた姫君たちが一斉に吐息をついた。

…こういう反応にも慣れてはいるが、祖母の紹介である以上無下にはできない。


「ほれ朔、もそっと近う寄りなさい」


助けを求めるように入り口に座っていた雪男を見たが――にっこり笑顔でぴしゃり。


「主さま、どうぞごゆっくり」


「……」


…後で覚えてろよ、という朔の心の声が聞こえた気がしたが、雪男は雪男で周に絡まれないよう目を閉じて精神集中しつつ、肉食獣…いや、姫君たちと朔が対峙する様を見守った。
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