宵の朔に-主さまの気まぐれ-
姫君たちと少し距離を置いて向かい合って座った朔は、一応左から順にそれぞれの姫と目を合わせた。

朔の目の中には妖気の結晶のような光が常に瞬いていて、姫君たちはとろけるような表情で朔を見ていた。

強い者は美しいーー妖の世界ではそれが絶対なため、全てを体現している朔の嫁候補として選ばれたことを姫君たちは誇りにこそすれど、話しかけることができずまごついていた。


「…で、姫君たち」


それまでもじもじしていた姫君たちが一斉に顔を上げると、朔の何かがこう告げた。


“違う”と。


今目の前に居る粒揃いの美女たちは、自分が探している女ではない、と。


「お会いできて光栄ですが、今ここで決めるわけにはいきません。俺たちは今知り合って、まだ言葉も交わしていませんからね」


ーー朔の声。

低くよく通り、伏し目がちな目を少し首を傾げながら上げると、その妖艶さに皆が言葉を詰まらせた。


「朔、それはよう分かっておる。今日は顔合わせだけでいい。じゃが毎日ひとりずつの姫と会うて歓談してもらうぞ」


「お祖母様…俺は暇じゃないんですよ」


「今回ばかりはこの周の言う通りにしてもらうぞ。でなければ雪男の身は妾が預かる故」


「………はあっ!?」


突然矛先を向けられた雪男が思わず大きな声をあげると、潭月が心のこもらない口調で肩を竦めた。


「我が孫娘の婿殿よ、お前の身、隅から隅まで弄んでやろう」


「ぬ、主さま!」


雪男の悲鳴に朔は深い息をついて目を伏せた。


「…分かりました。こんなことはもうやめて下さいますね?」


「うむ、そなたにはせぬ。次は輝夜の番じゃ」


…それはそれで大変なのだがーー


朔は潭月と周に頭を下げて立ち上がった。


「少しその辺を歩いてきます。雪男、お前はお祖母様のお相手を」


「えっ!?ちょ、主さま…」

ぷいっと顔を逸らして出て行ってしまった朔の後を追おうとしたがーー


「ふふ…雪男…近う寄れ」


周の猫なで声に、また悲鳴。
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