宵の朔に-主さまの気まぐれ-
翌日早朝――ようやく身体に力が入るようになった凶姫は、百鬼夜行から戻って来る朔を出迎えようと思い立って若干萎えた足を叱咤しながら立ち上がった。
心眼を使った後悔はしていない。
朔の顔を見たことで、全ての決心がついたのだから。
「まだ戻って来てないのね…」
しんと静まり返った屋敷内。
雪男や朧たちは各々受け持っている仕事に従事しており、途中柚葉の部屋に寄ってみると繕い物をしながらうたた寝をしていたため肩に羽織をかけてやって庭に向かった。
春の空気は麗らかで、花々の良い香りが鼻孔をくすぐる。
幸せな気分になって、裸足で庭に降り立った凶姫は、花の香りを愛でようと花壇に近付こうとした。
ばちっ
――何かが弾けたような音がして振り返った。
だが凶姫の目は見えないため何が起きているのか分からずただ動揺していたが…
その音の正体は、朔が屋敷に張った結界が破られた音。
無数の稲妻は侵入者を自動で攻撃するようになっており、侵入者は稲妻に全身を撃たれながらも凶姫に火傷だらけの手を伸ばした。
「主を惑わす者よ…死んで…!」
それは彼女――冥(めい)が主から下された命ではなかった。
主からの命は、この盲目になった女に手を出そうとする男の命を奪うこと。
だが冥は凶姫の幸せそうな顔を見て無性に腹が立って、はじめて主の命に背いた。
「きゃぁ……っ!!」
凶姫の絶叫が響いた。
朔の結界が破られたことにすぐ気付いた雪男が駆け付けたと同時に、ちょうど百鬼夜行から戻って来た朔は頭上から凶姫が強襲されようとしていた場面に出くわし、電光のように鞘から刀身を抜いて空を蹴った。
だが一歩及ばず――
凶姫の細い左肩は弓矢のような光に打たれて穿たれ、鮮血が噴き出した。
「凶姫!」
朔が叫び、次元の穴から半身を出している火傷だらけの無表情な侵入者の女の腕目掛けて刀を振り下ろし、それを切り落とした。
「近いうち…お前の命を主が奪いに来る…」
「なん…だと…!?」
落ちた手はそのままに、女が身を引いて次元の穴に沈むと、綻んだ結界は糸のように絡み合って元の状態に戻った。
「姫様!?」
「主さま!無事か!」
事態に気付いた柚葉と雪男が駆け寄ってきたが、朔は倒れて動かなくなった凶姫を抱き起して懸命に呼びかけて意識を取り戻そうと必死になっていた。
心眼を使った後悔はしていない。
朔の顔を見たことで、全ての決心がついたのだから。
「まだ戻って来てないのね…」
しんと静まり返った屋敷内。
雪男や朧たちは各々受け持っている仕事に従事しており、途中柚葉の部屋に寄ってみると繕い物をしながらうたた寝をしていたため肩に羽織をかけてやって庭に向かった。
春の空気は麗らかで、花々の良い香りが鼻孔をくすぐる。
幸せな気分になって、裸足で庭に降り立った凶姫は、花の香りを愛でようと花壇に近付こうとした。
ばちっ
――何かが弾けたような音がして振り返った。
だが凶姫の目は見えないため何が起きているのか分からずただ動揺していたが…
その音の正体は、朔が屋敷に張った結界が破られた音。
無数の稲妻は侵入者を自動で攻撃するようになっており、侵入者は稲妻に全身を撃たれながらも凶姫に火傷だらけの手を伸ばした。
「主を惑わす者よ…死んで…!」
それは彼女――冥(めい)が主から下された命ではなかった。
主からの命は、この盲目になった女に手を出そうとする男の命を奪うこと。
だが冥は凶姫の幸せそうな顔を見て無性に腹が立って、はじめて主の命に背いた。
「きゃぁ……っ!!」
凶姫の絶叫が響いた。
朔の結界が破られたことにすぐ気付いた雪男が駆け付けたと同時に、ちょうど百鬼夜行から戻って来た朔は頭上から凶姫が強襲されようとしていた場面に出くわし、電光のように鞘から刀身を抜いて空を蹴った。
だが一歩及ばず――
凶姫の細い左肩は弓矢のような光に打たれて穿たれ、鮮血が噴き出した。
「凶姫!」
朔が叫び、次元の穴から半身を出している火傷だらけの無表情な侵入者の女の腕目掛けて刀を振り下ろし、それを切り落とした。
「近いうち…お前の命を主が奪いに来る…」
「なん…だと…!?」
落ちた手はそのままに、女が身を引いて次元の穴に沈むと、綻んだ結界は糸のように絡み合って元の状態に戻った。
「姫様!?」
「主さま!無事か!」
事態に気付いた柚葉と雪男が駆け寄ってきたが、朔は倒れて動かなくなった凶姫を抱き起して懸命に呼びかけて意識を取り戻そうと必死になっていた。