宵の朔に-主さまの気まぐれ-
輝夜は四六時中朔の傍に居るわけではない。

百鬼夜行から帰って来た十六夜や屋敷を守る雪男夫妻、息吹、その他諸々が輝夜の元に集まってはわいわいと始終話をしている。

朔も人々を惹きつけてやまない魅力があるが、それは輝夜も変わらないのだ。


「鬼灯様は主さまの傍にずっと居るわけではないんですね」


「私が始終兄さんの傍に居たら、兄さんが寝てくれませんからね。私が煙のように消えてしまうのではないかと今でも昔のように手を握ってくる位ですから」


「ふふ、仲良しなんですね」


風呂から上がってきた輝夜はまだ暑いのか団扇で顔を扇ぎながら縁側に座って飛び交う蛍の光を見つめていた。

消え入るような魅力――それを持っている輝夜にまた自分も興味を持ってついじろじろ見てしまう。


そしてまた胸元がだらしなく開いていて、思わずにじり寄ってしっかり胸元を正してやった。


「鬼灯様、立派な殿方なんですからだらしないのはやめて下さい」


「ああ…これは…失礼」


きょとんとした目で見つめられて、思わず見つめ返す。

何も言わずにただ見つめ合う時間が流れた。

さあ、と風が吹いて輝夜の長い髪で隠れた右目…素顔が露わになり、あまりにも端正な美貌にまた見惚れて見つめてしまうと、ようやく輝夜が目元を緩ませて俯いた。


「あなたは不思議な方ですね」


「え…」


「ぼんやりしていて見えないんですよね。どうしてだろう」


「何が…ですか?」


「いいえ、独り言ですよ。ああそうそう、時々でいいのですが、あなたのお手伝いをしてもいいですか?」


突然の提案に今度は柚葉がきょとんとすると、輝夜は茶目っ気たっぷりにぱちんと片目を閉じて団扇で柚葉に風を送ってやった。


「お手伝いする代わりに、あなたに何か作ってもらいたいなと思って。嫌ですか?」


「い、嫌じゃないですよ全然。むしろ手伝ってくれると助かります。鬼灯様は器用だから」


「決まりですね。ふふ、何を作ってもらいましょうか」


わくわくしている輝夜が童のようで、笑みが滲んだ。
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