宵の朔に-主さまの気まぐれ-
四日目にしてようやく歩けるようになった朔は、まだ鈍く痛む腹を押さえつつ、百鬼夜行前で庭に集結している百鬼たちの前に立った。


「おお、主さま!」


「主さま、もうよろしいので?」


「ああ大丈夫だ。お前たちには心配をかけた。もう直に出れるようになるから、それまでは父様の言うことをよく聞くように。本当にすまなかったな」


頭を下げた朔に慌てふためく百鬼の様子は微笑ましく、中には感動して泣き出す者も居る始末。

凶姫と柚葉も共に朔の傍に居たが、心底朔が皆に心配されていたことが如実に分かり、顔を見合わせて笑った。


「ところで父様、首尾はいかがですか」


「…滞りなく恙なく粛正している。お前に代を譲るのは早計だった気がするな、身体を動かすのは気分がいい」


「そんなことを言うと皆がまたぴりっとしてしまいますからその辺で」


輝夜がやんわり笑い、十六夜が百鬼を視線で撫でると緊張が迸り、朔もまた笑った。


「名に恥じぬよう俺も精進しなければ。さあお前たち、行ってこい」


朔に送り出されて百鬼夜行が空に向かうと、なんだか雪男が小難しい顔をしていて朔が眉をひそめた。


「なんだお前その顔は」


「主さま、まだ無理しない方がいい。その腹の傷、まだ塞がってないって聞いたぞ。寝とけ。起きてこなくていいから」


「皆に顔を見せておかないと心配させるだろうが。朧、熱い茶を淹れてほしいんだけど」


「はい兄様」


夜に朔が屋敷に居るということは本当に珍しいことで、どうしても屋敷に残っている者総出で朔に群がってしまい、笑わせた。


「すごく見世物にされている気分だな」


「ふふふ、そうですね、兄さんが隠居すれば当たり前の光景になりますが、まだ早いですからね」


「隠居か。まだまだ先の話だな」


――凶姫を妻に娶る話はまだ輝夜にしかしていない。

なんでもお見通しなんですよ、という顔で微笑んでいる息吹にはもう見通されている気がするが…


早く完治させて、あの‟渡り”を殺して、そして…


「待ち遠しいな…」


美しい女をこの手にするのが、とても待ち遠しい。
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