宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「ふふ、これをこうしたら…こうなって……」


「…」


「ここにこれを付けて…ここを縫って…できたー!」


柚葉は時々独り言が多くなる。

大抵そんな時は何かを作っている時なのだが、輝夜が手伝いに来てくれていることすら忘れて集中して作っていたため、独り言が爆発してしまっていた。


「いやあ、楽しそうですねえ」


「は…っ!?ほ、鬼灯様が居たんだった…すみません…恥ずかしい…」


「実に楽しそうで可愛らしかったですよ、お嬢さん」


――輝夜に褒められるとなんだかくすぐったくなり、可愛くできた巾着袋を四方八方から眺めた後それを輝夜の眼前に突き付けた。


「実はこれ、百鬼の方に依頼されて作ったんです。とってもお綺麗な方だったので華やかな感じに作…」


にこにこしながら話を聞いてくれている輝夜にぺらぺら喋っていると、控えめに声がかけられた。


「柚葉?誰かと居るの?…この気配、鬼灯さん?」


「おや、どうしました?」


「鬼灯さんこそ柚葉の部屋で何を…」


遊びに来た凶姫は、はっとして顔を赤くしながら後ずさった。


「私ったらごめんなさい、察しが悪いわね。お邪魔しました…」


「姫様っ!?変な勘違いはやめて下さい!違いますから!」


「ふふふ、いや、私は歓迎ですけど」


「はいっ!?ほほほ、鬼灯様、何を言って…」


「私は節操がないのでどなたでも歓迎ですからね」


…なんとも物騒な発言をした輝夜に凶姫と柚葉の視線が集中すると、逆に輝夜の方がきょとんとなった。


「なんですか?」


「い、いえ、節操がないというのは…」


「読んで字の如く、ですが。求められれば応えます。それでその方が幸せになれるのならば」


「鬼灯さん…あなた深い。深すぎるわ…」


「さて兄さんの様子でも見に行ってきます。お嬢さん、お邪魔しましたね」


「い、いえ、ありがとうございました…」


輝夜が去ると、凶姫は柚葉の傍にすとんと座ってぽかんとしていた。


「あの人…謎すぎるわね」


「‟その方が幸せになれるのならば”って…じゃあ鬼灯様の幸せってなんなんでしょう?」


他人の幸せばかり願って、あなた自身は――?
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