宵の朔に-主さまの気まぐれ-
柚葉と輝夜がなんとなくいい関係かもしれない――

柚葉は朔のことを好きだったのだが、朔を諦めて輝夜と…?

悶々としながらこの妄想を朔に聞いてもらおうと部屋を訪れると、水の音がした。


「月?何をしているの?」


「まだ風呂に入れないから身体を拭いてる」


「じゃ、じゃあ今…」


「裸だけど」


…目が見えないのが良かったような残念なような…

逡巡していると、朔がふっと笑う気配がした。


「そんなところに立ってないでこっちに来れば?」


「じゃあ手伝おうかしら」


朔の傍に座ると水に浸した手拭いを渡されて、朔の肩に手を置いてゆっくり優しく首から肩にかけて拭いてやった。

浴衣を着ていないからか、朔から香る花の匂いが強烈で、触れている肩もごつごつしていて集中できなくなってきた。


「顔が赤いぞ」


「それはそうでしょ…見えていないけれど触ってるんだもの…。それに花の香りが…」


自分でも意識していなかったが朔の首筋に顔を寄せて鼻をすんと鳴らしてしまった凶姫は、唇が朔の首に触れてしまって慌てて身体を起こした。


「ご、ごめんなさい」


「…その気がないのなら今の俺は刺激しない方がいい。目の前に抱きたい女がいるのに挑発されると誰だって歯がゆくなるだろう?」


抱きたい、と言われると――抱いてほしい、と言いたくなる。

自分が‟渡り”との決着がつくまでは駄目だと制約をつけたのに、朔の声や身体に触れていると、どうしても身体の奥からきゅんとしてしまって俯いた。


「…なんなの?抱いていいのか?」


「……」


「その沈黙は俺のいいように解釈するぞ。…いいんだな?」


「…私…ええ…いいわ…。あなたの好きなように…きゃっ」


床に押し倒されて覆い被さられると、もうすでに息が上がりそうになって両手で口元を覆った。


惚れた男に触れられると、こんなにも荒ぶってしまうのか――

不安に指が震えると、その指を朔が温かく握った。


「怖がらないで」


「ええ…」


身体の力を抜いて、朔に全てを委ねた。
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