宵の朔に-主さまの気まぐれ-
何の情報もなく朔の部屋に集められた息吹たちは、固い表情で座っているふたりを見て同じように緊張した面持ちで朔たちの前に座った。


ふたりは畏まって正座していたのだが、ひとりだけ――輝夜だけは笑みを浮かべてふたりを見つめていた。


「朔ちゃんどうしたの?」


「今まで隠していたことがあったんですが、状況が変わったので話します」


普段温和な朔の表情が固いため不安を煽られた息吹は、隣に座っている十六夜の袖をぎゅっと握っていた。


「実は…子に恵まれました」


「……え?子…って…」


「凶姫…芙蓉との間に子ができたんです。ですので俺たちは夫婦になります」


―――きょとん。

圧倒的きょとんに輝夜が吹き出すとようやく空気が変わり、息吹は腰を浮かして照れて俯いている凶姫と、ようやく笑みを見せた朔の顔を交互に見た。


「子って…赤ちゃん…だよね?赤ちゃん?赤ちゃん!?」


「息吹さん…黙っていてごめんなさい」


「ううん謝らなくていいんだよ?朔ちゃん…赤ちゃん!?」


順番が…いやこの際それはどうでもいい。

朔の話では凶姫がつれないため、ふたりの仲が進展するまでまだまだ時間がかかると思っていただけにこの驚きよう。

百面相状態の息吹だったが、十六夜は静かに声をかけた。


「朔」


「はい」


自身は息吹と夫婦になった後もなかなか子に恵まれなかったため、家を存続させるという点においても焦りがあったのだが、朔は夫婦の縁を結ばずして子に恵まれ、それは何よりの朗報。


「でかした」


「ありがとうございます。…柚葉」


「は、はいっ」


部屋の隅に座っていた柚葉は、急に朔に声をかけられて息吹と同じ位動揺していたが、素っ頓狂な声を上げて輝夜に笑われた。


「落ち着きなさい」


「は、はい」


「俺たちはお前に一番喜んでもらいたいんだ。…祝ってもらえるか?」


そんな当然のことを聞かれるのも、今まで秘めていた思いを抱えていたことを知られたため。

柚葉は大きく頷いて、膝をつきながら凶姫の前に座るとその手をきゅっと握った。


「姫様おめでとうございます。赤ちゃん、私にも抱っこさせて下さいね」


「もちろんよ柚葉。あなたに喜んでもらえて良かった」


抱き合う。

柚葉がそっと腹に手をあてた。

この小さな命を守り抜く――そう決めて、また凶姫を抱きしめた。
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