宵の朔に-主さまの気まぐれ-
ようやく状況が呑み込めた息吹は、晴明の予言通り泣いたり笑ったり喜んだりで大忙しになった。


「やっと朔ちゃんにお嫁さんが!しかも赤ちゃんも!」


「ふた月ってことは…ここに来て早々手を出したってことか。さすが先代の息子!」


雪男の余計な一言に十六夜がじろりと睨むと、雪男は肩を竦めて何も話さず微笑んでいる輝夜の頭を撫でた。


「お前知ってたな?」


「ええ、すみません」


「謝ることはない。未来を知っていてそれを話せないのはお前に相当な気苦労をかけていると思うんだ。この先も見えているんだろう?」


「私の気苦労など気にすることはありませんよ、これが私の生き方ですから。この先もまあ見えてはいますが…」


珍しく言い淀んだ輝夜の表情は少し困った風で、朔はそこでとある考えに至った。


――柚葉が関わると未来が見えなくなると言った輝夜――

この先柚葉が関わる何かが起こるかもしれないということ。

凶姫はそのことに気付きもしていなかったが、ひとまずはめでたい日にそれを追求するものではないと考えを振り切って凶姫の肩を抱いた。


「つわりはしらばく続くだろうから、あまり無茶はしないで。いいな?」


「ええ。皆さん…こんな私を受け入れて下さってありがとうございます」


三つ指をついて頭を下げた凶姫を全員があたたかな目で見つめた。

特に息吹は――


「…泣きすぎだぞ」


「だってだって…!嬉しくって…!」


滝の如き大号泣。

目を真っ赤に腫らしてふたりの手を握って離さず、皆に笑われた。
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