宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔に抱きしめられていると、気分の悪さも薄らいだ気がした。

実は柚葉の様子も気になっていたのだが、落胆した様子もなければ何か食べたいものや飲みたいものはないかとしきりに聞いてくるし、すっかり世話焼きになっている。


「ああ…なんだか安心するわ…」


「つわりは苦しくないか?」


「苦しいけどこれはしばらく続くんでしょう?こんなのが毎日…子を産むって大変なことなのね」


「母様はほぼ毎年子を産んでいたからやっぱりあの人はすごい人なんだと思うな」


「息吹さんには教えてもらわなきゃいけないことが沢山あるわね」


「ん、母様も喜んでた」


――顔色も良くない凶姫が弱っている姿はそうそう見れるものではなく、朔はついにんまり笑いながらその頬をむにっと引っ張った。


「そうやって弱り切ってるのも色っぽいな」


「何する気よ、私病人なのよ?」


「妊娠は病じゃないけど、まあ甘えたいだけ甘えさせてやろうかな。…ということはしばらくお前を抱けないのか。それはつらい」


「そんなこと言われたって…今までだって普通に毎日その…してたんだから、別にいいんじゃないの?」


「そうなのか?でも流れたら怖いから安定期に入るまでは何もしない…と思う」


「私が身籠っているうちに浮気なんかしたら八つ裂きにしてやるわよ」


本当にされそうで震え上がった朔は、凶姫を床に寝かしつけて自らも隣に潜り込んだ。


「ちょっと。暑いでしょ」


「でも俺が居た方が安心すると思うし。ついでにここで昼寝もしていこう」


枕元には雪男が用意した大きな氷の塊が用意されていたため実際暑くはなく、また朔の腕が身体に絡みついてあまり身動きはできなかったのだが、とても安心してつい笑みが漏れた。


「やっぱりなんかしようかな」


「だ、め!」


そしてふたりで惰眠を貪った。

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