宵の朔に-主さまの気まぐれ-
柚葉の創作活動は一旦中断された。

凶姫の妊娠が発覚したため、春頃に生まれてくるという子のために、襟巻や半纏などを満面の笑顔で作っていた。

――正直に言えば複雑な思いはまだ拭えないが、四の五の言ってももう子まで作っているのだから割り込む余地など一切なく、いっそのこと爽快な気分だった。


「さすが主さま…手が早いったら」


「狙った獲物は逃さない方ですから兄さんは」


何故か手が空いている時部屋にやって来る輝夜が縁側でごろりと横になって答えると、すでに見慣れた光景のため何の感慨もなく柚葉はため息をついた。


「それを先に言ってくれれば私だってこんなにやきもきしなくて済んだのに。そう思いませんか?」


「あなた思い詰めていたじゃないですか。もうすでに男女の仲になりました、なんて報告をすれば自死しそうな勢いでしたけど」


「え…私そんなに思い詰めてました?」


「そうですね、穴を掘って兄さんの文句を一昼夜吐き出しそうな勢いでしたね」


…見られていたのか!?

みるみる顔が赤くなったり青くなったりした柚葉に吹き出した輝夜は、起き上がるとまただらしないと叱られる前に緩んだ胸元を正して首を傾げた。


「決戦の時が来たらあなたはどこに居るつもりですか?」


「私ですか?主さまの邪魔にならないよう姫様とここに居ますけど…どうしてですか?」


「うーん…分かりません。訊いてみただけです」


「?変なの…」


「いっそのこと全員同じ場所に居た方がいいんじゃないかなあと思ったり。その方が守りやすいんですよね。兄さんに提案してみようかな」


また違和感を覚えた柚葉は、手縫いしていた手を止めて輝夜をまっすぐ見つめた。


「あなたはどうしたいんですか?」


「ははは、私の意思なんて…」


「あなたがしたいことをすればいいんです。決めるのは主さまだけど、鬼灯様がこうしたいと思ったこと、ちゃんと伝えればいいじゃないですか」


苦笑いが滲む。

いつも直球を投げてくる柚葉を少し恐れながらも、尊い、と思っていた。
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