宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「ねえ朔聞いて」


「うん」


蜜柑の皮を剥きながら相槌を打った朔は、その後しばらくしても凶姫が喋らないため顔を上げると――ものすごくにやにやしていて軽く身を引いた。


「どうしたの」


「‟渡り”を殺した後の話よ。私ね…輝夜さんと柚葉はどうかなって思ってるの。あのふたりお似合いだと思わない?」


それは朔自身も何度も考えたことがあり、剥いた蜜柑を凶姫の口にねじ込みながら頷いた。


「俺もそう思うけど、輝夜は否定するんだ。柚葉はどう?」


「柚葉も否定するのよ。でもふたりが話してるのを見るとお似合いだなって思うの。ね、私たちでくっつけない?」


「輝夜が旅をやめてここに腰を据えるなら協力する。あいつには遂げなければならない使命があるんだ。それをまず第一に叶えてやりたい」


「そうね…。輝夜さんの秘密を握ってるって言ってたわ。何か知ってる?」


「知らないけどそれを探られるのはものすごく嫌がると思うからやめておいた方がいい。あいつは…今まで自分の意思で生きてきたことがないんだ。救済を求める者の声を聞き、駆けつける。それが自分の意思だと思っている節もあるけどそれは違う」


今度は凶姫が朔の口に蜜柑をねじ込みながら唸り、輝夜が言っていた‟自分は尻が軽い”という言葉を思い出して唇を尖らせた。


「あの人博愛主義ってこと?生きている者全員愛せるって人?」


「ん、それに近いと思う。自分の意思がないからこそできるんだろう。柚葉がずけずけ色々訊いてるみたいだからもっと輝夜の本性を暴いてほしいところだな」


「でも尻軽な人に柚葉はあげられないわ。あなたの弟でしょ、なんとかしなさいよ」


ふたりして蜜柑をもぐもぐしながら長考。


「輝夜は恋をしたことがないんだと思う。もし初恋が柚葉になったとしたら…ものすごく手は早いと思うぞ」


「あなたのようにね。…ねえ、あなたの初恋っていつ?」


「ええと…」


「いつよ!言いなさいよ!」


首を絞められながら乾いた笑いを浮かべた朔は、今も輝夜が柚葉の部屋でごちゃごちゃ言い合いをしているのだろうと考えながら嫁になる女から追及されまくっていた。
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