宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「主さま、お話してもいい?」
「…ああ」
夫の十六夜をいつものくせで‟主さま”と呼んでしまう癖の抜けない息吹は、朔たちが居ない間を見計らって最近働きづめの十六夜の隣に腰かけた。
「私は邪魔になりそうだからお家に戻ろうと思うんだけど」
「…その方がいい。何が起こるか分からん」
「主さまはここに居るんでしょ?ねえ…危ないことはしないでね?」
いつも朗らかで笑顔の絶えない息吹が表情を曇らせることが我慢ならない十六夜は、鼻を鳴らして吐き捨てた。
「百鬼夜行とて危ないことに分類される。たかが‟渡り”一匹どうということはない。それに‟渡り”はここに来ないと朔は踏んでいるからな」
ここには屋敷を守る雪男と朧、そして十六夜と凶姫、柚葉が残る予定だ。
強力な結界を張ることのできる晴明も駆り出されて、息吹としては誰かが危ない目に遭わないかと戦々恐々の思いをしていた。
「輝ちゃんもあっちに行くの?」
「そうらしい。あれは刀を振るえば超一流だ。…そんなに心配するな」
「せっかく朔ちゃんにお嫁さんが来て赤ちゃんにも恵まれて幸せづくめのはずなのに‟渡り”…」
――かつて‟渡り”に苦しめられた経験のある息吹は、その頃の出来事を思い出して身震いした。
普段は人目につく所では絶対絶対しないが…
十六夜は息吹の手を握って軽く揺すった。
「俺たち家族の大黒柱はお前なんだ。もう二度と‟渡り”とは関わらせないと朔たちと誓った。だから朔たちも本気を出して‟渡り”を撃退するだろう。お前は大人しくじっとしていろ」
「…はあい。主さま信じてるからね」
のんびり返事をした息吹に内心ほっとした十六夜は、視線を感じて振り返って兄弟ふたりがにやにやとにやついているのを見てぱっと手を離した。
「父様どうかそのままで」
「…うるさい!」
照れ隠しの怒声が響く快晴の空。
暗雲は徐々に近付いてきていた。
「…ああ」
夫の十六夜をいつものくせで‟主さま”と呼んでしまう癖の抜けない息吹は、朔たちが居ない間を見計らって最近働きづめの十六夜の隣に腰かけた。
「私は邪魔になりそうだからお家に戻ろうと思うんだけど」
「…その方がいい。何が起こるか分からん」
「主さまはここに居るんでしょ?ねえ…危ないことはしないでね?」
いつも朗らかで笑顔の絶えない息吹が表情を曇らせることが我慢ならない十六夜は、鼻を鳴らして吐き捨てた。
「百鬼夜行とて危ないことに分類される。たかが‟渡り”一匹どうということはない。それに‟渡り”はここに来ないと朔は踏んでいるからな」
ここには屋敷を守る雪男と朧、そして十六夜と凶姫、柚葉が残る予定だ。
強力な結界を張ることのできる晴明も駆り出されて、息吹としては誰かが危ない目に遭わないかと戦々恐々の思いをしていた。
「輝ちゃんもあっちに行くの?」
「そうらしい。あれは刀を振るえば超一流だ。…そんなに心配するな」
「せっかく朔ちゃんにお嫁さんが来て赤ちゃんにも恵まれて幸せづくめのはずなのに‟渡り”…」
――かつて‟渡り”に苦しめられた経験のある息吹は、その頃の出来事を思い出して身震いした。
普段は人目につく所では絶対絶対しないが…
十六夜は息吹の手を握って軽く揺すった。
「俺たち家族の大黒柱はお前なんだ。もう二度と‟渡り”とは関わらせないと朔たちと誓った。だから朔たちも本気を出して‟渡り”を撃退するだろう。お前は大人しくじっとしていろ」
「…はあい。主さま信じてるからね」
のんびり返事をした息吹に内心ほっとした十六夜は、視線を感じて振り返って兄弟ふたりがにやにやとにやついているのを見てぱっと手を離した。
「父様どうかそのままで」
「…うるさい!」
照れ隠しの怒声が響く快晴の空。
暗雲は徐々に近付いてきていた。