宵の朔に-主さまの気まぐれ-
見えている未来を人に話すことができないため、自分の行動が奇怪に見えることは十分分かっていた。

もうすぐそこに脅威が迫っていたため、輝夜にとっての特異点――つまり柚葉に対抗策を講じる必要があった。


「お嬢さん、ちょっといいですか?」


「はい、なんですか?」


部屋を訪ねると、相変わらず生まれてくる朔たちの子のためにものすごく小さな手袋や靴下を編んでいた柚葉が顔を上げて答えると、輝夜は傍に座ってにこっと微笑んだ。


「ちょっと目を閉じてもらってもいいですか?」


「な…なんですか?」


「そんな嫌そうな顔をされると傷つくなあ。私を信じてもらえるなら目を閉じて下さい」


「それは信じてますよ」


朔の弟という時点で何も疑う余地などない。

性格はともかく――と内心思いながら目を閉じた柚葉の顔を数舜じっと見つめた輝夜は、顎に手をかけて上向かせると――


唇に唇を重ねて、柚葉を硬直させた。


そして…舌先で何かを口腔内に送り込んで反射的に柚葉はそれを飲み込んでしまったが、輝夜は舌を絡めて身体の動きを封じると、ゆっくり離れた。


「ほ、鬼灯様…何を…っ」


「お守りです」


「え…?」


「あなたに関しては何が起きるか分かりませんから、私が傍に万が一居なくともあなたを守れるように加護を授けました。では失礼します」


…柚葉にとっては二度目の口付け。

それを両方奪った男は何事もなかったかのように部屋を出て行き、一時茫然としていた柚葉だったが、だんだんむかむかしてきて壁に座布団を思い切りぶつけて叫んだ。


「何なの!?」


輝夜の行動には何も意味がないように見えて実は意味があるのか?

加護とは一体――?


「もう…意味分かんない…」


だが唇はとても優しく甘いもので、柚葉はへなへなと倒れ込んで輝夜を男として意識している自分に気付き、それを否定するため何度も拳でぽかぽか頭を殴った。
< 293 / 551 >

この作品をシェア

pagetop