宵の朔に-主さまの気まぐれ-
長考していた。

百鬼夜行の主――あの朔という男、もしや死んでいないのではないのか、と。

魂の扱いに長けている黄泉は、朔の魂がどこにも存在しないことに疑問を感じていた。


「それにあの貝…聞いたことがある。あれは我らが使用していい代物ではない。あれの用途は…」


夢を見せること。

自分にとって都合のいいこと悪いこと、両方を見せる神具だ。

何のために使用されたのか?

何かを隠すためなのではないのか?

それに何故殿上人が…天の上の者が持っている貝があの屋敷にあるのか?


「あの男か…!」


髪が長くいつも不敵に笑んでいるあの男――

妖だと思っていたが、それもまた違うのか?


「考えても拉致があかん。仕掛けに行くか」


連れ帰って来た玩具は完成した。

冥を追うのをやめて専念した結果で、この玩具がもしかしたらいい働きをしてくれるかもしれない。


「…なんだ今頃。何をしに戻って来た?」


「…」


背後に気配を感じて肩越しに振り返った黄泉は、自分で取り付けてみたのか斬られた腕は付いていたが機能していない冥を冷めた目で見つめた。


「…また傀儡を…?」


「これか?これはな、ただの暇つぶしだ。冥、お前が居ないからこんなしょうもない遊びをする羽目になったんだからな」


…自分が居なくて寂しかったのか?

ほんの少しだけ心が温かくなった冥は、黄泉が追って来なくなったのを案じて戻って来た。

何か厄介ごとに――あの異様な雰囲気を纏う男にやられたのではないかと思い戻ったが、主は傀儡遊びに集中していただけでほっとして膝を折った。


「…申し訳ありません」


「いや、いい。よく俺から長い間逃げて居られたな、感嘆に値するぞ。こっちに来い。ちゃんと腕をつけてやる」


片腕しかないこの最高傑作を元の美しい傀儡に戻さなければ。

それにはやはり――


「あの女の腕も美しかった。捥いでお前につけてやるからな」


――未だにあの女に執着する主を恨みつつ、こくんと頷いてその腕に抱かれた。
< 297 / 551 >

この作品をシェア

pagetop