宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「誰の子だ…!?」


「主さまの客人に手を出すなど限られているぞ。どういうことだ?」


ざわざわ。

凶姫が放った一言で百鬼たちは騒然となり、騒ぎを起こした当人は動揺しながら朔を振り仰いだ。


「やってしまったな」


「じょ…冗談よって言ったら信じてもらえるかしら…?」


「それは無理だろうな。仕方ない、ばらしてしまおう」


――騒ぎを収めるにはもう真実を話すしかない。

朔が一歩踏み出そうとした時…背後で楽しそうに笑う声がして振り返った。


「その子の父は、私ですよ」


「輝夜…?」


きょとん。

きょとん具合が特に激しかったのは柚葉で、ざわめきがぴたりと止んで皆の視線を一気に集めた輝夜は、茫然としている凶姫の手をそっと握ってにっこり。


「そうですよね?」


「え…?な…何を言ってるのよ輝夜さん…」


「こんなに美しい方が屋敷に居て手を出さないわけがありません。子までできたからにはもちろん責任を取って私の妻としてここに住んで頂きます。さあそろそろ部屋に」


「こんな時に冗談を言わないで!この子の父は!朔なんだから!」


――結局のところ、またもや自らの口で真実を放った凶姫は、また吐き気が襲ってきてへなへなと座り込もうとしたところをひょいっと朔に抱き上げられて首に抱き着いた。


「もう…あなたからちゃんと話して」


「ん」


女の百鬼たちの動揺はとくに凄まじく、すでに号泣している者が多数。

朔は凶姫を抱き上げたままの状態でぽかんとしている皆を見回した。


「今まで黙っていたが、凶姫は俺の妻になる。子ができたのは予想外だったが、妻にすることに代わりはなかった。輝夜、お前が妙な茶々を入れるから余計に皆が驚いているじゃないか」


「ふふふ、すみません言ってみたかっただけです。兄弟で奪い合われていた感想はいかがですか?」


「輝夜さん。後で殴らせてね」


「怖い怖い」


「というわけで、‟渡り”を制裁した後に祝言を挙げる。だが全てが終わるまで幽玄町の者には口外するな。この屋敷は戦場になる。彼らを巻き込むわけにはいかない」


それが冗談ではなく真実だと分かると――皆が一斉に雄たけびを上げた。


「おお!嫁!子!主さま!おめでとうございます!」


ありがとう、と繰り返す。

祝福に応えている中、輝夜は柚葉に思い切り手をつねられていて痛そうな声を上げていた。
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