宵の朔に-主さまの気まぐれ-
限りなくぬるま湯に近い風呂にふたりで入り、雪男の膝に乗って向かい合わせのまま、美しい真っ青な目から目を逸らすことができない朧は雪男の頬に触れて声色を落として呟いた。


「きれいな目…。抉り出して私だけのものにしたいな」


「こっわ!そんな心配しなくてもお前しか見てないから大丈夫。…‟渡り”も凶姫の目を奪った時もそう思ったのかもな」


「兄様も大変でお可哀想。でもお師匠様、兄様にお嫁さんが来て良かったですね」


「ほんとそれな。俺の肩の荷も下りるってもんだけど、後は輝夜だけか。うーん」


「お師匠様。今日は余計なことは考えないで下さい。私と私の子たちのことだけを考えて」


――何人子を生もうとも朧の体形は一切崩れることなく細いままで、腰を抱いて抱きしめると波紋が打ち寄せては消えて昔を思い出した。


「お前が小さい頃、風呂上りに俺に抱き着いてきたことがあったな。もっのすごい火傷を負ってさ、しばらく人前に出れなかった」


「私がお師匠様に興味を抱いて恋をしたのはそれがきっかけですよ。この人を火傷させずに触れるようにするにはどうすればいいのか父様にしつこく聞いてものすごく嫌な顔されました」


「嫌な顔?俺を見る度に今も嫌そうな顔するんだけどまだ認められてないってことか?ったくしつけえな」


首筋に頬を寄せて唇を這わせると、ぞくぞくと身体を震わせて吐息が漏れた朧の艶やかな表情を見て朝が訪れるまでは朧を思い切り甘えさせてやろうと決めていた雪男は、耳元でそれを問うた。


「どうしてほしい?今日はお前の言うことなんでも聞いてやるよ」


「本当に?じゃあ…ここで…今…」


「ん、分かった」


ゆっくり身体を重ねると、今も昔も恥ずかしがって声を上げようとしない朧の唇から声が漏れて愛情が漲って攻めに転じた。


「愛してる。愛してるから、何も心配しなくていい」


「ひさ、め…!」


何度も強く頷いて、唇を重ね合った。
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