宵の朔に-主さまの気まぐれ-
焔はそんな夫婦の仲睦まじい姿を少し遠くから微笑ましく見守っていた。
人と妖の間に生まれ、幼い頃から病弱で床に臥せることが多かった母は今や転生して妖に。
死ぬ間際、若葉にこう言われた。
『私が戻ってくるまで、ぎんちゃんをよろしくね』
転生することを予期していたのか?
死ぬ間際まで銀は片時も若葉の傍から離れず、死んでから後は笑顔を見せることがなくなり、ただ母と約束した焔は転生して再び戻って来る時まで妹と、魂が抜けてしまったかのような父を守らんと力をつける――鍛錬に全てを注いできた。
はじめて転生した母を見た時、戸惑いを隠せなかった。
自分と同じように白狐として目の前に現れて――ただただ戸惑っていたが、父の銀は笑顔を取り戻してとても大切そうに母の肩を抱いていた。
「焔ちゃん」
声も姿も違うけれど、そう呼びかけられた時――迂闊にも涙が出て、よろよろと近付いてその白い手を握って匂いを嗅いで、母だと確信した。
若葉が戻って来てから銀はみるみるいつもの銀に戻り、これから共に長い生を過ごせることにいつも感謝していて、いつもこう言っていた。
「きっと息吹が若葉を転生させてくれたんだ」
と。
あの可愛らしくてお茶目な先代の妻――息吹が特殊な力を持っていることについては聞き及んでいたが、若葉も同じくそれに賛同して笑みを見せながら教えてくれた。
「静養するために屋敷を離れる時、息吹さんに言ったの。‟生まれ変わることができたらぎんちゃんの傍に。ぎんちゃんと同じ姿で一緒に生きていきたい”って」
その願いが全て叶い、銀も若葉もますます息吹に頭が上がらなくなったが、息吹は首を振って笑いながらそれを否定した。
他人に決して耳や尻尾を触らせることのない銀が息吹には好き放題させていて、焔も自然と息吹には逆らわず言うことを聞くようになっていた。
「転生、か…」
自分も生まれ変わるならば――来世も朔の…主さまの傍に。
息吹に言ってみようかな、と若干本気に思いつつ、金の目を細めて夫婦の仲睦まじい姿を見ていた。
人と妖の間に生まれ、幼い頃から病弱で床に臥せることが多かった母は今や転生して妖に。
死ぬ間際、若葉にこう言われた。
『私が戻ってくるまで、ぎんちゃんをよろしくね』
転生することを予期していたのか?
死ぬ間際まで銀は片時も若葉の傍から離れず、死んでから後は笑顔を見せることがなくなり、ただ母と約束した焔は転生して再び戻って来る時まで妹と、魂が抜けてしまったかのような父を守らんと力をつける――鍛錬に全てを注いできた。
はじめて転生した母を見た時、戸惑いを隠せなかった。
自分と同じように白狐として目の前に現れて――ただただ戸惑っていたが、父の銀は笑顔を取り戻してとても大切そうに母の肩を抱いていた。
「焔ちゃん」
声も姿も違うけれど、そう呼びかけられた時――迂闊にも涙が出て、よろよろと近付いてその白い手を握って匂いを嗅いで、母だと確信した。
若葉が戻って来てから銀はみるみるいつもの銀に戻り、これから共に長い生を過ごせることにいつも感謝していて、いつもこう言っていた。
「きっと息吹が若葉を転生させてくれたんだ」
と。
あの可愛らしくてお茶目な先代の妻――息吹が特殊な力を持っていることについては聞き及んでいたが、若葉も同じくそれに賛同して笑みを見せながら教えてくれた。
「静養するために屋敷を離れる時、息吹さんに言ったの。‟生まれ変わることができたらぎんちゃんの傍に。ぎんちゃんと同じ姿で一緒に生きていきたい”って」
その願いが全て叶い、銀も若葉もますます息吹に頭が上がらなくなったが、息吹は首を振って笑いながらそれを否定した。
他人に決して耳や尻尾を触らせることのない銀が息吹には好き放題させていて、焔も自然と息吹には逆らわず言うことを聞くようになっていた。
「転生、か…」
自分も生まれ変わるならば――来世も朔の…主さまの傍に。
息吹に言ってみようかな、と若干本気に思いつつ、金の目を細めて夫婦の仲睦まじい姿を見ていた。