宵の朔に-主さまの気まぐれ-
若葉が人だった時とても病弱だったため、壊れないようにとても優しく優しく、愛し合った。

線が細いところは同じだが今の若葉は豊満で、人だった時は小枝のように細かったため、今も銀は癖で若葉を激しく求めることはなかった。


「ぎんちゃん、私はもう大丈夫だよ?」


「癖なんだ。姿形は変わっても魂は同じだろう?俺はかつてお前を独りにさせたことが多かったから、大切にしたいんだ。…まあ、お前が俺に激しさを求めるなら考えてやらなくもないが」


長い銀の髪を寝転んで指で梳いた若葉は、尻尾で銀の足をくすぐりながら少し唇を尖らせた。


「ぎんちゃんがこういう感じの女の人が好きそうだからこの姿になったのに」


「なんだと?確かに豊満な女は好きだったが俺はもうかつての俺じゃないんだ。お前がどんな姿であっても愛していることに変わりはない」


起き上がった若葉は素肌の上から羽織で身体を隠しながら、じっと見つめてくる銀に懇願した。


「ぎんちゃん。朔ちゃんと朔ちゃんのお嫁さんを守ってね」


「言われなくともそうする。そういえば以前十六夜が零していたが、お前…朔の嫁候補だったことがあるらしいぞ」


「それは周りが勝手に言ってたんでしょ?朔ちゃんは私を兄妹のように接してくれたし、私は…私はぎんちゃんが好きだったから」


「…お前、人だった時夫婦だった丙(ひのえ)がどうなったか知っているか?お前を捨てて違う女に走って子まで作ったが、悉く病にかかって三人とも死んだらしいぞ。因果応報だな」


「そう…なの?…いい人だったけど、私も悪いの。ぎんちゃんを好きだったのに諦めようとして違う人と夫婦に…」


黙り込んでしまった若葉の手を引っ張って抱き寄せた銀は、若葉に覆い被さってにたりと意地悪気な笑みを浮かべた。


「そんなに俺を好きだったのか?」


「うん、多分」


「多分とは失礼な。まあ、せっかく朔がくれた時間だ。お前の望むように今日は激しく愛してやろう。頼むから壊れないでくれ」


「大丈夫。ぎんちゃん、好き」


表情はあまり動かないが、素直に愛情を示してくれた若葉を抱きしめた。

何度も何度も抱きしめて壊れないことを確認して、今まで怖くて閉じ込めていた激しさを放出して、若葉を愛した。
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