宵の朔に-主さまの気まぐれ-
鬼族は、愛情表現に相手を噛むことがある。
部屋を閉め切って薄暗くなった中、息吹の肩には甘噛みではあるがくっきりと牙の跡が残っていた。
「…ちっちゃいって思ってるんでしょ」
「思ってない」
「主さまは胸が大きい女の人が好きだもんね。今まで見てきた人は全員大きかったもん」
「…お前のが一番愛しいし、可愛い」
――言った後自分の発言に猛烈に恥ずかしくなって顔を赤くして口元を手で押さえている十六夜にきゅんとした息吹は、右の肩に残された牙の跡に触れた。
少しやりすぎたかと十六夜が心配そうな顔をしたため笑って首を振り、真ん丸になって十六夜の腕の中に転がり込んだ。
「朔ちゃんにはお嫁さんが来たけど輝ちゃんはどうなのかな。柚葉ちゃんと少しいい感じじゃない?」
「…そうだな。そうなれば、俺たちはここを出て行かないと。そういう決まりではないが、そういう習わしではある」
「そうだね、傍にいつまでも居ると口出ししちゃいそうだもんね。今のうちに鬼姑になる特訓しておかなくちゃ。‟あらこの味噌汁辛すぎるわね”とか‟あらここ埃が溜まってるわよ”とか言って嫌がられるの。どう?」
「…お前には無理だと思うが。ちなみに俺は誰もが怖がる鬼舅になる自信はある」
「主さまは笑うとすごく可愛いんだから笑う特訓してみたら?ほら笑ってみて」
息吹にせがまれて笑ってみたものの表情がひきつって見えただけで、息吹が吹き出すと頭を抱いて胸に押し付けた。
「笑うな。俺には笑顔など似合わん」
「すっごく素敵だよ?だから女の人がいっぱい寄ってきちゃうんでしょ?旅に出ることになったら行く先々でまたもてちゃうんだろうから、もし浮気なんてしたら離縁するんだから。熟年離縁は主さまつらいよ?」
「お前が居ないと何もできない。だから浮気など絶対しない」
「‟もう絶対しない”の間違いじゃない?」
「…もう絶対しない」
言い負かされて笑顔で見上げてきた息吹を見下ろした十六夜、ぽつり。
「…やっぱり小さいな」
「もう!ひどいっ!」
ぽかすか殴られてふっと笑い、その笑顔に息吹は見惚れて、ぎゅうっと抱き着いた。
部屋を閉め切って薄暗くなった中、息吹の肩には甘噛みではあるがくっきりと牙の跡が残っていた。
「…ちっちゃいって思ってるんでしょ」
「思ってない」
「主さまは胸が大きい女の人が好きだもんね。今まで見てきた人は全員大きかったもん」
「…お前のが一番愛しいし、可愛い」
――言った後自分の発言に猛烈に恥ずかしくなって顔を赤くして口元を手で押さえている十六夜にきゅんとした息吹は、右の肩に残された牙の跡に触れた。
少しやりすぎたかと十六夜が心配そうな顔をしたため笑って首を振り、真ん丸になって十六夜の腕の中に転がり込んだ。
「朔ちゃんにはお嫁さんが来たけど輝ちゃんはどうなのかな。柚葉ちゃんと少しいい感じじゃない?」
「…そうだな。そうなれば、俺たちはここを出て行かないと。そういう決まりではないが、そういう習わしではある」
「そうだね、傍にいつまでも居ると口出ししちゃいそうだもんね。今のうちに鬼姑になる特訓しておかなくちゃ。‟あらこの味噌汁辛すぎるわね”とか‟あらここ埃が溜まってるわよ”とか言って嫌がられるの。どう?」
「…お前には無理だと思うが。ちなみに俺は誰もが怖がる鬼舅になる自信はある」
「主さまは笑うとすごく可愛いんだから笑う特訓してみたら?ほら笑ってみて」
息吹にせがまれて笑ってみたものの表情がひきつって見えただけで、息吹が吹き出すと頭を抱いて胸に押し付けた。
「笑うな。俺には笑顔など似合わん」
「すっごく素敵だよ?だから女の人がいっぱい寄ってきちゃうんでしょ?旅に出ることになったら行く先々でまたもてちゃうんだろうから、もし浮気なんてしたら離縁するんだから。熟年離縁は主さまつらいよ?」
「お前が居ないと何もできない。だから浮気など絶対しない」
「‟もう絶対しない”の間違いじゃない?」
「…もう絶対しない」
言い負かされて笑顔で見上げてきた息吹を見下ろした十六夜、ぽつり。
「…やっぱり小さいな」
「もう!ひどいっ!」
ぽかすか殴られてふっと笑い、その笑顔に息吹は見惚れて、ぎゅうっと抱き着いた。