宵の朔に-主さまの気まぐれ-
まさに千差万別――

朔の愛し方は多種多様に渡り、抱かれる度に女の影を感じずにはいられない凶姫は、身体を気遣ってとても優しく愛してくれた朔の首に腕を回して膝の上に正面から座った。


「あなたに色々教え込んだ女のことを話すつもりはないわけ?」


「ない。過去は過去、今は今。やけにこだわるけどなんで知りたいの」


「あなたと別れることになった時さぞ後悔したんだろうなって思っただけよ。もういいわ」


ぷいっと顔を背けたものの朔が喉でくつくつ笑っている音が聞こえてぺちんと後頭部を軽く叩いた。


「お前は俺が女と話す度にそうやって嫉妬するつもり?」


「するかもしれないわね、何せ私まだ若いから。成人してもない頃に‟渡り”に凌辱されて、成人してからも一方的に男に抱かれるだけの生活…私、まともじゃないのよ。気が触れているからあなたが女と話すだけでおかしくなりそうなの」


「俺は百鬼の中に居る女には手を出したこともないし、今後もないから安心してほしい。それに‟渡り”を殺した後は通常通り毎夜百鬼夜行に出るし、戻って来た後はずっとここに居る。お前の傍に。それに気が触れているだって?」


凶姫のふっくらした唇に唇をかすめながら耳元で息を吹きかけてぞくりとさせながら囁いた。


「真に気が触れているなら俺はお前に殺されている。お前はまともだ。美しくて、可愛い」


どさりと床に押し倒して覆い被さった朔は、凶姫の腹が冷えないように布団を被って閉じられたままの瞼を指でつっとなぞった。


「変わった目の色をしているって言ってたけど、どんな色?」


「内緒よ。ねえ朔…‟渡り”を殺したら…私を少女に戻してくれる?こんな…こんな突っぱねた女じゃなくて、経験できなかったことを沢山経験させてくれる?」


「お前が望むならなんでもする。それじゃ今から可愛い声を聞かせてもらおうかな」


唇を重ねて心を重ねて、身体を重ねて――

癒えない心の傷を癒すために、全てを懸けて凶姫を限りなく優しく愛しく思いながら、その身を抱いた。
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