宵の朔に-主さまの気まぐれ-
柚葉に胸の谷間があったならば――まさにその谷間に顔を埋めるような恰好になったわけだが…


「…谷間…ありませんね?」


「……鬼族の女にも胸が小さい女は居るんです」


「ふふ、大丈夫ですよ。私の母様は小さい方ですから慣れてます」


何気に失礼なことを言いつつ輝夜は一瞬深く抉られた痛みを乗り越えて柚葉の背中に腕を回して抱きしめた。


…全部洗いざらい話してしまいたい――

それは絶対にしてはいけないことだけれど、ほんの片鱗だけでも…


「私は天使たちの仲間なんです」


「てん…し?」


「この世を作り、人を作り、理を作った唯一の方をお守りして、その方の愛している者たちを救済する…それが宿命づけられているんです。この双肩には重たいものが乗っているんですよ」


「よく…分かりません。でもあなたは意思を持って生きてはいないと思います。したいこと、されたいこと…もっと貪欲に求めていいと思いますよ」


「そうですか?じゃあそうします」


柚葉の膝をすくってすとんと膝に乗せた輝夜は、驚きつつも頬を赤く染めている柚葉の髪を撫でた。

女を自ら欲したことは今までなかったが…今は――


「…処女、頂いてもいいんですか?」


「そ、それは……明日以降の話…ですよね?」


「ああ、ということは明日以降だったらいいんですね?よかった。でも少しだけ…齧ってもいいですか?」


「え?」


される、と思った。

ぎゅっと目を閉じた柚葉の唇にそっと唇を重ねて、‟まだ欲しい”と思った。


拒絶されていないと分かると、舌を絡めて柚葉の唇から時折漏れる吐息に――何かが震えたような気がした。


それはこの世に生を受けた時から求めているもののような気がして――


離れ難く、求め続けた。



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