宵の朔に-主さまの気まぐれ-

想いの重み

柚葉は輝夜の腕の中で目を覚ました。

抱かれたわけではないのだが――床を共にして何度も口付けを交わして…一気に輝夜に心が傾いた。

輝夜の目に何が見えているのかは全く見当がつかないけれど、今から起きるであろうことに不安を感じてとても独りではいられないという目をしていて、自ら床に誘って…言葉数の少なくなった輝夜と共に朝を迎えた。


凶姫は夜明け前、しんと静まり返った風呂場で朔と共に徐々に明るくなる空を見つめていた。

その腕に抱かれて朔にしなだれかかり、今日これから戦いが始まり、‟渡り”に奪われた自身の目が戻ってくるか、それともこのまま目は見えないのか…少なくとも朔の勝利は頑なに信じている。


「私、あなたに不測の事態が起きたら…運命を共にするわ」


「なんだそれ。俺が死ぬと思ってる?それはない。ここずっとこんな穏やかな時は過ごしたことがなかったから、全てが漲ってるんだ。だから不安にならないで」


ぎゅうっと抱きしめられて、しがみつくように朔に抱き着いた。


「みんなこうして大切な人とひと時を過ごしたのかしら。輝夜さんは…柚葉のところ?」


「そうだと思う。今日何が起こるか分からないって言ってた。輝夜には今までなかった不安だと思うんだ。芙蓉…お前は輝夜や雪男の傍に居て。俺ひとりであの‟渡り”と対峙する。今度は油断しない」


何度も限りなく優しく腹に触れてくる朔の大きな手にそっと手を重ねた凶姫は、そのまま朔に抱えられて風呂場を出て丁寧に身体を拭いてもらった後浴衣を着て朔の部屋に戻った。


途中居間で雪男と朧に会い、百鬼夜行を早めに切り上げてきた十六夜と出迎えた息吹に会い、とても静かだけれど皆が決意に光る目をしていて、今日確実に‟渡り”を仕留めるという闘志に漲っていた。

朔が彼らに声をかけながら自室に入ると、凶姫は疑問を口にした。


「あなたの家って‟渡り”に縁があるの?」


「うん、とても。それは今日が終わったら話す。…芙蓉、今まで不遇だったと思うけど、それも今日で終わりだ。お前の目も今日から見えるようになる」


「私、不幸ばかりじゃなかったわよ。…‟渡り”に目を奪われなければ…あなたがあの集落に現れなければ、あなたに出会えなかった。逆に‟渡り”に感謝したいくらいだわ」


ふっと笑った朔とまたごろんと床に寝転んで手探りでさらさらの朔の髪に触れた。


今日、全てが終わるだろう。

そう頑なに信じて、朔を信じて唇を重ねた。
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