宵の朔に-主さまの気まぐれ-
動揺していた。

惚れているのか、と訊かれて最初何を言われているのか分からず呆けてしまったが――

なんとなく小さな島国に立ち寄って、そこで外を見上げていた女の目の美しかったことか。

その目を使って最高の傀儡を作ろうと意気込んで、目を奪って今までずっと懐に入れて楽しんでいるこの美しい目――


凌辱するのは、征服欲を満たしたいから。

行為の最中、女――凶姫は声ひとつ上げずただただ耐えていた。

ずっと美しい女だと思っていて、他の男に手を出されたくないと思って、いつもは部品を奪った後殺すのが楽しみの一つだったのだが、そうはせずに呪いをかけた。


‟他の男に抱かれたら、その男を殺す”と。

どんなに離れていても凶姫に手を出せばすぐ分かり、男たちを殺していったが――


元々最高傑作だった凶姫から目を奪ったことで何やら妙な喪失感に襲われたのは確かで、またふらりと会いに行ったもののこの時は短刀を手に歯向かわれて、その恐怖に引きつった美貌にぞくぞくしながらやり込めてまた凌辱したのだが、明確に‟嫌われている”と感じて何かがちくりと痛んだのは確かだ。


だが断じて惚れてなどいない。

それでも手で腹を庇い、歯を食いしばりながらこちらを睨んでいるであろう凶姫と、子を孕ませた朔には無限の憎しみを抱いて殺意に濡れた目で姿勢を低くした。


――雪男たちに動く気配はない。

だがやはり…

やはり、輝夜の存在には何かしら背筋を這うような気持ち悪さを感じていて、粉々になった貝が散らばった足元を指した。


「お前の仕業か。まさかあれらの手の者とはな。神具を持ち出すなど干渉していいと思っているのか?」


「いいんですよ、私は愛されているので。さあ、さっさと兄さんに殺されて下さい」


やはり微笑みを絶やさない輝夜に、周囲には無数の一騎当千の男たち――


「やはりあれを使うしかないな」


何もせずのこのこここへ来たわけではない。


黄泉が大地に向けて掌を翳した。

何かが起こる――朔は身構えて、天叢雲を握り直した。
< 325 / 551 >

この作品をシェア

pagetop