宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「ぐ…っ、あぁあーーっ!」
絶叫が木霊する。
いや木霊はない――どこか分からない空間で、真っ暗闇の中で柚葉は恐怖から浅い息を繰り返しながら身を縮めていた。
…凶姫を連れて行かれることは阻止できたが、この‟渡り”をあの場に留まらせていてはいけないと心が警鐘を鳴らしていた。
こうするほか、なかったのだ。
「ここは…どこ…?」
次元の穴。
この穴を通ってどこかへ行き来しているようだが、一体どこへ繋がったのか?
最後に見た輝夜の顔――凍りついたような表情でこちらを見ていた。
「あんな顔駄目だよ…あなたが繊細な人だってこと、ばれちゃうよ…」
「おん、な…!貴様、よくも俺の腕を…!」
‟渡り”――黄泉の声と共に急に明るくなって目を手で庇った柚葉は、恐る恐るゆっくり目を開けて、目の前でものすごい形相で仁王立ちしている黄泉を見て喉が引きつった。
右手は肘から下がない。
そうだ、凶姫を掴んでいた手――あれは自分が渾身の力でもって切り落とした。
「あ、ああ、あなたがいけないのよ…!姫様は幸せになるんです!旦那様に恵まれて、赤ちゃんができて、幸せになるんだから!」
――自分がこんなに大きな声が出せるなんて。
柚葉は黄泉を睨んで後退った。
痛みからか反論せず唸りながら睨んでくる黄泉を前に、少しだけ辺りを見回してみると、何もなく、途方も広い空間であることが分かった。
すぐ近くは見えるが、遠くは暗くて見えない。
一歩踏み出してきた黄泉の殺気が凄まじく、はっとした柚葉は短刀を握り直して黄泉に翳した。
「っ、次は左手を切り落とすわよ!」
痛みのあまり、黄泉が目と鼻の先で膝から崩れ落ちた。
柚葉はそれを見て少しずつ冷静になって、短刀を下ろした。
「人の痛みには鈍感なのに、自分の痛みには敏感なのね」
この男をどうにかしなければ。
柚葉は考えていた。
必死に、必死に――
絶叫が木霊する。
いや木霊はない――どこか分からない空間で、真っ暗闇の中で柚葉は恐怖から浅い息を繰り返しながら身を縮めていた。
…凶姫を連れて行かれることは阻止できたが、この‟渡り”をあの場に留まらせていてはいけないと心が警鐘を鳴らしていた。
こうするほか、なかったのだ。
「ここは…どこ…?」
次元の穴。
この穴を通ってどこかへ行き来しているようだが、一体どこへ繋がったのか?
最後に見た輝夜の顔――凍りついたような表情でこちらを見ていた。
「あんな顔駄目だよ…あなたが繊細な人だってこと、ばれちゃうよ…」
「おん、な…!貴様、よくも俺の腕を…!」
‟渡り”――黄泉の声と共に急に明るくなって目を手で庇った柚葉は、恐る恐るゆっくり目を開けて、目の前でものすごい形相で仁王立ちしている黄泉を見て喉が引きつった。
右手は肘から下がない。
そうだ、凶姫を掴んでいた手――あれは自分が渾身の力でもって切り落とした。
「あ、ああ、あなたがいけないのよ…!姫様は幸せになるんです!旦那様に恵まれて、赤ちゃんができて、幸せになるんだから!」
――自分がこんなに大きな声が出せるなんて。
柚葉は黄泉を睨んで後退った。
痛みからか反論せず唸りながら睨んでくる黄泉を前に、少しだけ辺りを見回してみると、何もなく、途方も広い空間であることが分かった。
すぐ近くは見えるが、遠くは暗くて見えない。
一歩踏み出してきた黄泉の殺気が凄まじく、はっとした柚葉は短刀を握り直して黄泉に翳した。
「っ、次は左手を切り落とすわよ!」
痛みのあまり、黄泉が目と鼻の先で膝から崩れ落ちた。
柚葉はそれを見て少しずつ冷静になって、短刀を下ろした。
「人の痛みには鈍感なのに、自分の痛みには敏感なのね」
この男をどうにかしなければ。
柚葉は考えていた。
必死に、必死に――