宵の朔に-主さまの気まぐれ-
百鬼夜行とは即ち同じ妖を討つ非道の所業。

いくら気が遠くなるほど昔に人と結ばれた盟約とは言え、この行いを好まなく思っている者は多い。

代々その百鬼夜行を率いる者は妖の中で最も強く最も美しい者が何故か生まれる節があり、好ましく思っていない妖は過去いくらでも存在したが、ついぞ討ち取ることができず現在に至る。


だから現在当主の朔は最も強く最も美しい者なのだ。


「主さまお帰り」


明け方朔が戻って来ると、すでに身支度を澄ませていた柚葉は縁側に正座して座り、深々と頭を下げた。


「お帰りなさいませ」


「ああ、まだ居てくれてよかった」


――それが例え治療してもらうためにかけてくれた言葉であれど柚葉にはとても心に響いて顔を上げると、朔はまだ若干顔色が悪いように見えた。


「主さま…まだお加減が悪いのですね?」


「え!?主さままた無茶したのか!?」


「いや…程々にしておいたんだが…ちょっとまだ調子が悪いな」


普段そういった弱音を吐かない朔がそう漏らしたため、雪男は朔の首根っこを摑まえて問答無用と言わんばかりに柚葉の前に無理矢理座らせた。


「柚葉、頼む」


「分かりました。主さま、傷を見せて下さい」


その時朔が少し返り血を浴びていて着物に点々と血痕がついているのを見て思わず柚葉が身を引くと、朔は失礼、と小さく呟いて立ち上がった。


「先に風呂に入って来る。柚葉、もうちょっと待っていてもらえるか」


「は、はい…」


名を呼ばれる度にきゅんきゅんする。


やばい、と思ったがもう後の祭り。


柚葉は朔に絡め取られていた。

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