宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔の顔色をよく読む柚葉に実際雪男たちはとても感心していた。
本来朗らかな性格の朔だが最近ふとした調子に押し黙ることもあったり、考え事をしている時があったりで気にはなっていたのだが――本音を明かしてくれない。
こういう時輝夜が居てくれたならどんなに良かったことか――
せめてもう少し長居してはもらえないかと雪男が口を開きかけた時、朔が風呂から上がって戻って来た。
清潔な着物に着替えて小綺麗になった朔が目の前に座って胸元から腕を抜いて傷を晒す。
引き締まった身体に頬が熱くなったが、求められているのは治療。
渾身の気を込めて治癒の術をかければ完治するかもしれないと思った柚葉は、傷に両の掌を翳して精神を集中させた。
柚葉の掌から淡く白い光が漏れると、やはり温かい気持ちになった朔がほっとした顔を見せた。
この機を逃さなかった雪男はすかさず朔の脇に座ると、真面目極まりない顔で朔と柚葉に訴えかけた。
「なあ柚葉。急ぐ旅じゃなければもう少しゆっくりしていけないか?」
「え…」
「主さまの傷が癒えるまで……いや、柚葉が出て行きたいと思ったらいつでも出て行っていい。俺たち百鬼は主さまの異変に気付けなかった。柚葉、だからお前には感謝してもしきれない。厚くもてなしたいんだ。な、主さま」
「…ああ、それはそうだな。そうしてもらえるとありがたい」
――この温かい光には何か抗えない力がある――
本来本音をすべて打ち明けるべき雪男に言葉にできない葛藤をどう伝えればいいのか分からず悩むことが多くなっていた朔は、少しの癒しを求めて柚葉の目をじっと見つめた。
「そ、そんな…恐れ多い…」
「気構えなくていい。客人として数日滞在していってほしいだけだ。乳母殿、どうだ」
乳母と言ってもまだうら若き女は、朔の上目遣いと微笑にやられてしまい、それを拒絶することができなかった。
「で、でしたら…しばらくご厄介に…姫様、よろしいですね?」
「主さま、お怪我が治りましたらお暇いたします」
「うん、分かった」
そうして朔と柚葉の同居が始まった。
本来朗らかな性格の朔だが最近ふとした調子に押し黙ることもあったり、考え事をしている時があったりで気にはなっていたのだが――本音を明かしてくれない。
こういう時輝夜が居てくれたならどんなに良かったことか――
せめてもう少し長居してはもらえないかと雪男が口を開きかけた時、朔が風呂から上がって戻って来た。
清潔な着物に着替えて小綺麗になった朔が目の前に座って胸元から腕を抜いて傷を晒す。
引き締まった身体に頬が熱くなったが、求められているのは治療。
渾身の気を込めて治癒の術をかければ完治するかもしれないと思った柚葉は、傷に両の掌を翳して精神を集中させた。
柚葉の掌から淡く白い光が漏れると、やはり温かい気持ちになった朔がほっとした顔を見せた。
この機を逃さなかった雪男はすかさず朔の脇に座ると、真面目極まりない顔で朔と柚葉に訴えかけた。
「なあ柚葉。急ぐ旅じゃなければもう少しゆっくりしていけないか?」
「え…」
「主さまの傷が癒えるまで……いや、柚葉が出て行きたいと思ったらいつでも出て行っていい。俺たち百鬼は主さまの異変に気付けなかった。柚葉、だからお前には感謝してもしきれない。厚くもてなしたいんだ。な、主さま」
「…ああ、それはそうだな。そうしてもらえるとありがたい」
――この温かい光には何か抗えない力がある――
本来本音をすべて打ち明けるべき雪男に言葉にできない葛藤をどう伝えればいいのか分からず悩むことが多くなっていた朔は、少しの癒しを求めて柚葉の目をじっと見つめた。
「そ、そんな…恐れ多い…」
「気構えなくていい。客人として数日滞在していってほしいだけだ。乳母殿、どうだ」
乳母と言ってもまだうら若き女は、朔の上目遣いと微笑にやられてしまい、それを拒絶することができなかった。
「で、でしたら…しばらくご厄介に…姫様、よろしいですね?」
「主さま、お怪我が治りましたらお暇いたします」
「うん、分かった」
そうして朔と柚葉の同居が始まった。