宵の朔に-主さまの気まぐれ-
しばらくしてから起きた柚葉は、隣に輝夜が居ないのをぼうっとしながら見てのろのろと脱ぎ散らかした着物を着て羽織を肩にかけると、居間に移動した。

そこには何故か朔や雪男や朧、それに輝夜が勢ぞろいしていて、なんとなく気圧されて話しかけられず入り口でまごまごしていると、凶姫がすぐ気付いて重たい腹を抱えてゆっくり立ち上がると、ゆっくり歩み寄ってその手をぎゅっと握った。


「ねえ柚葉、私になにか話があるんじゃない?」


「え…、えっと…」


ちらりと輝夜を盗み見た柚葉は、その後皆を見回してにやつきの止まらない面々に納得。


「ああ…鬼灯様…話しちゃったんですね?」


「当然でしょう、隠しておく理由がありません」


「柚葉!あなたの口からちゃんと聞かせて!」


それからはもう手を引っ張られて皆に取り囲まれて、元々注目されるのに慣れていない柚葉は何度も言葉に詰まりながら、自ら輝夜に求婚したことを明かした。


「あの…私が鬼灯様のお嫁さんになりたいって言ったんです。恥ずかしい…」


「いいや、輝夜が男らしくなかったのがいけないんだ。柚葉、よく決意してくれた」


朔に笑いかけられてぽっと赤くなると、むっとした輝夜はちょこんと座っていた柚葉を後ろから抱きかかえるようにして腕を回して牽制をかけた。


「兄さんの笑顔は女を殺すんですから、あまりお嬢さんに笑いかけないで下さいね」


「ごめん、気を付ける。うちの嫁にも睨まれてるし」


「朔、あなたは私に殺されないように気を付けてね。でね、柚葉…皆で考えたことがあるの。後はあなたの同意があれば決定よ」


きょとんとした柚葉は、凶姫から熱心に一緒に祝言を挙げようと勧められて、じわじわその意味に恐れ戦いた。


「で、ですけど…当主の主さまの祝言を邪魔するわけには…」


「邪魔じゃない。むしろそうしてくれると俺としては嬉しいし、共に喜び合えるからそうしてほしいんだけど」


柚葉は背後の輝夜を振り返って目を輝かせた。


「姫様と一緒に……いいんですか?」


「あなたがそうしたいなら。私も兄さんと祝言を挙げたいなあ」


「じゃあ…あの…主さま…姫様…お言葉に甘えて…」


「柚葉っ」


背後から輝夜、正面から凶姫に抱き着かれてうめき声が漏れた。

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