宵の朔に-主さまの気まぐれ-
自分自身を戒めた朔は、それから内側に籠もることをやめていつもの自分に戻った。


だが…悩みが完全に晴れることはない。

慕ってくれる百鬼たちにどう応えてやればいいのか。

どうすれば、誰もが認める主になれるのだろうか――気が付くとそんなことを考えていて、共に縁側に座っていた柚葉と目が合うと、やんわり微笑まれて何故だかほっとした。


柚葉は自ら進んで話をしてこない。

まるで翁のように天気がいいとか花が綺麗だとか、他愛のない話をこちらから振れば答えてくれる程度のもの。

だが不思議とその空気が心地よく、ふたりして黙ったまま庭を眺めていることが多くなった。


朔の傷が完治して、帰りたいと思った時に帰ればいいと告げて一週間が経った。

もうすっかり傷は癒えていたが、柚葉が去ろうとする気配を感じる度に朔は何やら言い訳をして柚葉の逗留を長引かせていた。


「主さま、傷も良くなったんじゃないか?」


「んん、そうなんだが…」


「…ふうーん?」


「なんだそのふうーんは」


「いやあ、だってさあ…そういうことだろ?」


雪男の言いたいことは分かる。

だが、女として意識しているかと言えばしているかもしれないし、していないかもしれない。

何せ長話もしたことがないし、柚葉から何か問うてくることもないのだから。


「お前たちがそうやって嫁候補扱いするとやりづらいだろ」


「やりづらい!?何を!?」


茶々を入れられて辟易した朔は、庭のつつじを愛でることが多い柚葉に目をやる。


…目を合わすことも少ないが、柚葉の持っている空気感と雰囲気は好きだ。


「とりあえずそっとしておいてくれ。それから考える」


「了解。へますんなよ」


「うるさいぞ。お前こそ早く母様を諦めろ」


「は!?俺関係なくね?」


雪男をからかうのは楽しい。

いつもの笑顔が出た朔を庭か柚葉が恋する乙女の眼差しで見つめていた。


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