宵の朔に-主さまの気まぐれ-
店仕舞いをしたのはいいものの人が引くまで店内で待ち、非番の強面の百鬼たちがぞろぞろ応援に来てくれたため、ようやく屋敷に戻ることができた柚葉は、面白い光景に出くわした。


「もう、朔ったら…そろそろ機嫌直しなさいよ」


「…」


居間の前の縁側で凶姫に背を向けて寝転んでいる朔を見て息を切らしながら近付くと、凶姫が肩を竦めて朔の背中を叩いた。


「ほら、帰って来たわよ。お店を見に行けなかったからってふてくされないの」


「……」


それでも返事はなく本当に朔が拗ねていて、凶姫が対処のしようがなく背中を叩き続けていると、遅れて戻って来た雪男が声を上げて笑いながら朔の傍に座った。


「珍しいな、拗ねてんのか?百鬼夜行の主が軽々と往来を歩くもんじゃねえっつうの。ほら、早く機嫌直せよ」


「………」


無言。

朔がこうして拗ねることなど滅多にないことだったが、小さな頃から知っている雪男は対処の仕方を知っている。


膝を折って立ち上がると、両手の指をわきわきさせながら――朔の足の裏を豪快にくすぐり始めた。

そこが弱点だと知っている者も数少なく、思わず身をよじって笑い声を上げてしまった朔は、雪男の手を払いのけてむくっと起き上がった。


「お前がいけないんだぞ、俺を行かそうとしなかったから」


「だーかーらー!主さまは祝言もあるし明日には弟妹たちが大集結するんだし、落ち着け!ここでじっとしてろ!以上!」


わあわあと雪男と口げんかする姿をそ、大集結。微笑ましく見守っていたが――

凶姫は暁をむぎゅっと胸に抱きしめて首を傾げた。


「明日には弟妹たちが大集結…?」


「そ、大集結。ちゃんとみんなの名前を覚えろよー」


凶姫と柚葉、俄かに大緊張。
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