宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「ねえ朔…私ちゃんと皆さんにご挨拶できるかしら。私口下手だから心配だわ」


「挨拶なんて別にできなくていい。俺が選んだ女なんだから気に入られないわけがない。取り越し苦労だったって絶対思うから気楽に」


「そうですよ、第一私たち弟妹たちは揃って大らかですし。口の悪い者など…ええと、兄さん…如月くらいなものでしょうか」


「ん、そうだな、如月くらいなものだ。でもあいつは雪男にだけ毒舌なだけであって俺たちには特に害はない」


「どういうこと?」


それから百鬼夜行の時間になるまで、雪男に懸想して執拗に付きまとっていた如月という名の長女が居ることをはじめて教えてもらった凶姫と柚葉は、朧と庭で雪だるまを作っているふたりを見て何度も頷いた。


「雪男さんはいい男だものね、あんなのが傍に居たら仕方ないわよ。ねえ、他にはどんな逸話があるの?他の弟さんや妹さんたちは?」


「早くに嫁に行ったり嫁を取ったりした者が多いけど、なんというか…皆すんなりうまくいかなかったのはうちの家系の性というか、逸話だらけでどこから語ればいいのやら」


「そうですねえ、大抵夫婦になるまで揉めに揉めて結果特別夫婦円満ですからいいんじゃないでしょうか。明日本人たちに会ってみれば分かりますよ」


大恋愛の末夫婦になった者が多いと聞いて目を輝かせた凶姫は、指を吸っている暁の額に生えている小さな角をちょんと突いて笑いかけた。


「可愛がってもらえるといいわね、暁」


「あぅぅ」


挨拶などしなくていいと言われたものの、人見知りで口下手でいいところなしの自身の性格を熟知している凶姫は、机に向かってどう挨拶しようか書き散らしてうんうん唸っていた。


「頑張れ、私!」


「だぁー」


暁が応援してくれていた。

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