宵の朔に-主さまの気まぐれ-
結局雪男に逃げ切られてしまった如月は、朔に強めの口調で呼ばれて仕方なく居間に戻って来た。

そこでようやく――ようやく、初見となる凶姫と柚葉、そして生まれたての赤子を見て、ふんわりと笑って凶姫と柚葉を驚かせた。


「待って下さい言い当てますから。…そちらの赤子を抱いている方が朔兄様の妻ですね?で、もうおひとりが輝夜兄様の?」


「当たりだ。俺の子は真名を暁という。どうだ、可愛いだろう」


親馬鹿全開で暁を自慢する朔にきゅんと音が聞こえてきそうなほどときめいた面々。

そうならざるを得ないほどに確かに暁は可愛らしく、如月はその目の色を見て、次に凶姫を見て、口をぽかんと開けた。


「不思議な目の色をしていますね」


「私の家系では私しかこんな目の色ではなかったのですが…」


「へえ、でも素敵だからいいじゃないですか。朔兄様、この子はたいそう男をたぶらかす娘になりそうですねえ」


「たぶらかす側もたぶらかされる側もお断りだ。ところでお前ちゃんと挨拶したのか?」


「ああ失礼しました。長女の如月と申します。順番で言うと四人目になります。我が家系は男子が多いので、少ない女同士どうぞ親しくして下さいませ」


…至極まともに見えた。

ただ先程見てはいけないものを見てしまったような気がしていたので、きっとあれは何かの間違いなのだと言い聞かせながら挨拶を返そうとすると――


「主さま、この席順なんだけ、ど……やべっ!」


「今度は逃がすものか私の愛玩物よ!さあその着物を全てひん剥いてめくるめく世界を見せてやろう!」


「お、朧ー!助けて!!」


「女の背に隠れるなどそれでも男か!確認してやるから早く脱げ!」


わああ、と声を上げて逃げてゆく雪男をものすごい速さで追って行く如月。

朔は腕を組んでしばらく目を閉じていたが、ひとつ大きく頷いて目を開けてにっこり。


「まあ、あれらはもう放っておこう。今日皆が揃ったら大切な話をするから」


「大切な話?」


――ものすごく大切な話だった。
< 514 / 551 >

この作品をシェア

pagetop