宵の朔に-主さまの気まぐれ-
夕暮れになるまでに、朔の弟妹たちが全員揃った。

最後にやって来たのは十六夜と息吹で、一番大きな客間に移動して上座に座らされた凶姫や柚葉はかちかちに緊張して顔を上げられないでいた。

何せ、皆が穴が空くほどに見ているのだから。

それもこれも全員が目が潰れそうなほどに美しく、頭の天辺から足のつま先までじっくり見られているのが手に取るように分かった。


「祝言を迎えるにあたり、我が鬼頭家の始まりから現在に至るまでを聞いてもらう。話は長くなるが、これは我が家の伝統だ。話を聞いてなおついていけないと思ったら正直に言いなさい」


十六夜が饒舌になるのは、この時しかない。

朔たちからすれば繰り返し何度も聞いてきた話だが、毎回いつも気が引き締まる思いがするため、誰も異論を口にはしない。


ここではじめて凶姫と柚葉は地下の秘密を知り、鬼頭家が昔から敬われつつも‟裏切りの一族”と揶揄されてきた理由を知って歴史の重みを強く感じていた。


特に百鬼夜行が何故行われるようになったかの話については、一切の脚色がなくともふたりの心を打つものがあった。


「…以上だ。百鬼夜行の時間が過ぎてしまったな。朔と輝夜、お前たちは行って来い」


「はい」


そこで少しだけ席を外して庭に出て朔たちの見送りに出た凶姫と柚葉は、朔と輝夜にぐりぐり頭を撫でられて顔を覗き込まれていた。


「なんだ、臆したか?夫婦になるのがいやになったとか?」


「そんなんじゃないわよ。とても歴史の深い家なのね」


「ま、無駄に長く続いてるのは確かだけど。地下には明日にでも案内するからひとりで行かないように」


「ええ、行ってらっしゃい。気を付けてね」


百鬼夜行が空を行くと、勢いよく障子が開いて天満率いる弟姉たち、にっこり。


「さて次はあなたたちの話を聞かせてもらおうかな」


皆ににっこりされて、戦慄。
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