宵の朔に-主さまの気まぐれ-
凶姫も柚葉も揃って口下手だ。

一斉に話しかけられたとあっては緊張感はさらに高まり、誰の質問に答えていいのかも分からず、きれいどころに囲まれてふたり手を取り合って縮こまっていた。


「こらこらお前たち、落ち着くんだ」


「ねえその目の色素敵ね、赤ちゃんも同じ目の色なんでしょ?見たいなー、見に行ってもいい?」


「え、ええと…」


「あの輝兄の心を射止めるなんてどんな娘さんかと思っていたけど、なんて可愛らしい。どことなくうちの母様に似てるような?」


わいわい、がやがや。

矢継ぎ早に話しかけられて凶姫が過呼吸になりかけた時、天満がとてもとても低い声で一言。


「お前たち。落ち着くんだ」


――ぴたり。


穏やかな天満の身体からそんな低い声が出るのかと凶姫たちが驚いていると、今度は如月がしっしと手で追い払うような仕草を弟妹たちにして見せた。


「話は以上だ。芙蓉さんたちは暁の世話があるから今日はこれで解散とする。母様が料理を作ってくれているから居間に移動しろ」


「はーい」


天満と如月という二大巨塔に盾突くものなど居るはずもなく、蜘蛛の子を散らすようにして皆が出て行くと、残った天満と如月は肩で息をついて小さく頷き合った。


「やはり我々が居ないと駄目だな、天兄様」


「そうだけど、僕はお前の監視役でもあるぞ。雪男の尻を追いかけ回すのはやめろ。また勘当同然に追い出されたいのか?」


「いたたた、分かったから離して!」


耳を勢いよく引っ張られて如月が悲鳴を上げると、仲の良い二人の痴話げんかにようやく凶姫が息を整えて笑った。


「ああ驚いた。あの、ありがとうございました」


「私らはなかなかこうして揃わないから、揃うとうるさいんだ。叱っておくから許してやってほしい」


「いいえ、こちらこそ反応できなくてごめんなさい。明日からは頑張ります」


凶姫が胸を叩くと、天満と如月はふっと笑って客間を出て行った。


「じゃあ姫様、暁ちゃんにお乳あげに行きましょう」


その頃暁は雪男にあやされてきゃっきゃと声を上げて喜んでいた。
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