宵の朔に-主さまの気まぐれ-
当主の祝言というものは馬鹿馬鹿しいほどに盛大で、馬鹿馬鹿しいほどに踏まなければならない手順が多い。

しかも次男も同時に祝言を挙げるとあって身内含め盛り上がりは最高潮で、とうとう客間のひとつは皆が持ってくる祝いの品でいっぱいになってしまった。


「俺たちは妖だけど神前式なんだ。これは取り仕切って下さるお祖父様の意向だから納得してほしい」


「私は別に構わないけれど、ちゃんとできるか心配よ。あなたの弟妹たちとお会いしただけで息が止まるほど緊張したのに…この町中の人たちに見られるんでしょう?」


「堂々としてればいい。尻込みしてるのも可愛いけど、堂々としてるお前は神々しい位だからな」


「お熱いですね、ご馳走様です」


――祝言の準備をしている間、暁の面倒はほとんど天満が見てくれていた。

というよりも暁がべったりくっついて離れないというのが正解で、お乳を飲ませる以外のことはほどんと天満が面倒を見ていた。


「ものすごく懐いてるな。後見人はお前になってもらおうかな」


「え、僕は駄目ですよ、自分の世話だけで手いっぱいですから」


天満の耳に光る紅玉の耳飾り――

その耳飾りは会った時すでに気付いていたのだが、女物であるのは間違いなく、その持ち主は訊かずともなんとなく分かっていた。


「使用人も持たずひとりで暮らす意味はあるのか?お前がよければここに一緒に住んでほしいんだが」


天満は腕に抱いた暁を慈愛の眼差しで見ていたのだが、驚いたように顔を上げてはにかんだ。


「いえ、僕は…」


「輝夜も戻って来た。弟妹たちは皆健在。残る心配事はお前だけになった。だから傍で見張る」


「見張るって!朔兄は相変わらず心配性ですね」


天満が暁の鼻をちょんと押すと、その指をぱくっと咥えて吸い始めた暁がまるで亡くした我が子に見えて、天満は首をふるふる振って儚い思い出を振り切った。


「天満、考えてほしい。俺は真剣だぞ」


「…分かりました。心配してくれてありがとう」


凶姫も異論はなかった。

天満に幸せになってほしい――過去をまだ忘れることができなくても。
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