宵の朔に-主さまの気まぐれ-
雪男と朧は夫婦になった際、屋敷から少し丘を上がった所に住居を建ててそこに住んでいるのだが、輝夜と柚葉は住居を構えるつもりがないらしく、朔はどうしたものかと屋敷の図面を広げて腕を組んで考えていた。


「少し改装するか。こことここの部屋を繋げて広くして、この一角を輝夜たちの住まいにあてようと思う。天満、どう思う?」


「いいんじゃないですか?離れといっていいほど離れてる一角ですし、普段使ってない部屋ですからね」


「よし、じゃあ提案してくる」


図面を手に柚葉の部屋もとい仕事部屋に向かった朔は、廊下でばったり晴明に会って足を止めた。


「あれ?お祖父様、いついらっしゃってたんですか?」


「ああ、ちょっと呼ばれてね。私はもう帰るが、後で山姫の迎えを寄越すよ」


「ええどうぞ。お祖父様、そろそろ山姫と百鬼の契約を切ろうと思います。彼女は散々尽くしてくれましたし、夫婦の時間を過ごさせてやりたいんですが」


晴明は眉を上げて微笑んだ。

山姫と夫婦になって白雷に恵まれてからも山姫は百鬼として屋敷から離れることはなく、朝方百鬼夜行から朔たちが戻って来ると平安町に渡って夕暮れまで晴明と共に過ごす――

そんな生活をもうずっと続けていて、こちらから切り出さない限りは山姫は今後もずっと尽くし続けてくれるのだろうと思っていた朔は、ぽんと肩に手を置かれて晴明を見つめた。


「ありがとう、朔。私からはなかなかやめてはどうかと切り出すのは難しくてね。何せそなたたちの面倒を見ることが彼女の生きがいだったから。だがそなたたちは家族が増え、屋敷に住む者も増えて、もう山姫の手を借りずとも十分やっていけるのだろう。それを山姫も分かっているはずなのだ。朔、そなたたから話してもらえるかな?」


「ええ、後でちゃんと向き合って話をします」


「ありがとう。ではまた祝言の日に会おう」


――そして晴明と別れて柚葉の部屋の襖をぽすぽす叩いて中に入った朔は、ふたりがにこにこしているのを見て首を傾げた。


「話があるんだけど…嬉しそうだな、どうした?」


「いいえ、別に。兄さん、話とはなんでしょう?」


「ああうん、これを見てほしくて」


秘密にしたいこともあるだろう、と詮索しなかった朔は、ふたりの前で図面を広げて話を詰めた。

そしてその後、山姫を呼び出して居間で向き合った。
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