宵の朔に-主さまの気まぐれ-
側近たちは側近たちで朔抜きで情報交換をする。

そして決議されたものが朔の元へいき、最終的には朔が決める。

その日はいつものように見合い相手に会った後凶姫に会いに行き、それが終わると皆で幽玄町へ戻り、百鬼夜行の準備。

正直いってかなり強行軍で疲れが溜まることが多く、銀は離れの部屋で酒を飲みながらぼやいていた。


「しかし朔はどうするつもりだ。あの艶やかな娘を嫁にするのか?」


「いやあそれが主さま認めないんだよな。大概色々正直に話してくれるけど今回は違うっていうか…だから余計に疑ってしまうというか」


雪男と銀と焔――三人…いやふたりはううむと頭を悩ませていたが、焔はむっつり。

それに気付いた雪男がぱしっと軽く焔の頭を叩いた。


「こらお前、次にまた妙なことしでかしたら本気で追放してやるからな。主さまが!」


「…」


耳が垂れてしょげる焔の頭を今度は父の銀が撫でて笑う。


「朔は守るべき者が居れば居るほど強くなる。ということは好いた女ができれば無敵というわけだ。で?娘の方は気がありそうか?」


「ありそうだけどなあ。なにぶん秘密が多すぎてちょっとよく分からない。でも新たな情報は仕入れた」


三人が額を突き合わせて声を潜める。


「凶姫のあの目、どうやら奪われたらしいんだ」


「なんと。潰されたのではなく奪われたのか。なんのために?」


「目撃者が居なくてそれ以上は分からないんだけど、本人が当時周囲にそう漏らしたらしい。どう思う?」


「…また現れるかもしれませんね」


焔がそう呟くと、雪男は頭を抱えて唸った。


「ということは…関わろうとする主さまにも危険が及ぶってことだな。銀、焔、お前ら百鬼夜行の時十分気をつけろ。主さまから目を離すな」


「もちろんだとも」


「はあ…また危険な女に目をつけたもんだなあ」


謎の美女凶姫――

その生い立ちをしれば知るほど朔が深みにはまっていきそうで、ため息ばかり出てしまった。
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