宵の朔に-主さまの気まぐれ-
息吹から話を聞きつけた妹の朧が屋敷に下りてくると、末妹溺愛の朔は小さな子を胸に抱いている朧にはにかんで見せた。


「もう聞いたみたいだね」


「はい。兄様、とうとう…」


「とうとうも何も会うだけだから。母様は早とちりだからなあ」


――妹には砕けた口調になる朔は、雪男に早く書けそら書けと急かされて文を書き終えてぐったりして縁側に寝転んでいた。


「だって兄様私たちの子とばかり遊んでて満足してるじゃないですか。私は兄様の子と私たちの子を友にさせて百鬼にしてもらって兄様とお師匠様みたいな仲になりたいんです」


雪男は紛うことなく片腕で、一応今までなんでも相談してきた。

面と向かって雪男との仲を言われるとなんだか照れくさくてまたはにかんだ朔は起き上がると少し長めの前髪を耳にかけて小さくあくびをした。


「そうだね、そういう者が傍に居ると安心できるからね」


「でしょう?あと輝夜兄様が戻ってきて下さるといいんだけど。…兄様、輝夜兄様はお元気にしているでしょうか」


――輝夜。

ひとつ下の弟で掴み所のない性格をしている。

小さな頃から何故か敬語で、不思議な力を持って生まれたために人々を救う役目を与えられ、若くして家を出て行った不遇の弟だ。

本人はそれを不幸と思ったことはないと笑って言うが、自分にとっては弟姉たちの中でもかけがえのない存在だった。


少し前に雪男と朧が夫婦になるかならないかでひと騒動あった時に戻ってきて以来…あれからここには帰ってきていない。


「輝夜か…。そうだね、あいつが戻ってきてくれるとどんなに嬉しいか」


「私たちの子が生まれたら戻ってきてくれるって約束したのに。…お元気ですよね?」


「あいつは強いから元気だと思うよ。そうだな、全力で叫んだら戻ってきてくれるかな」


声なき叫びをあげる者の声を聞き、その苦痛を消し去るために旅を続ける輝夜――


今は、どこに居るのだろうか?


過去?
現在?
それとも、未来?

行方は分からないが、きっと健在だと信じていた。
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