宵の朔に-主さまの気まぐれ-
どうやら祖父母たちはそんなに遠くない場所に滞在しているらしく、数日後返事があった場所は何度も百鬼夜行の時に頭上を通過したことがあった。


そこそこ大きな集落でかつ人里から離れており、鬼族が多く住んでいる。

祖父母たちは父に代を譲ってからあちこち旅をしていてひとつ場所に長く滞在することはないのだが、今回の場所は居心地が良いらしく、早く会いに来いと書かれていた。


「朔、早めに行かんとこっちに嫁候補たちを連れて乗り込んでくるぞ」


百鬼夜行の最中、片腕として隣に陣取っている九尾の銀にそう声をかけられた朔は、肩を竦めて頷いた。


「分かっている。ああめんどくさい…」


「そんなだからお前は嫁が来んのだ。ずっと独り身で居たいのか?」


「長男として代を引き継ぐ子を作る役目があるのは重々分かっている。だが急ぐことか?急いで決めたとして後悔はしないのか?」


銀が金の目を丸くして朔の肩を抱くと、女の百鬼たちが黄色い悲鳴を上げた。


「その時は離縁すればいいじゃないか。お前は百鬼夜行の主だから妻は何人でも娶れるんだぞ」


「お祖父様も父様も妻はひとりだけだ。それに何人も面倒見れない。お前だって妻は若葉だけだろ」


「うちはお役目なんかないからな。ま、面倒なことは早めに済ませておけ。だが家に待ってくれる女が居るのはいいことだぞ」


銀と夫婦になった若葉は人だった。

そして母と同じように幽玄橋に捨てられたみなしごであり、銀が気まぐれに育てたが実際に育てたのは母の息吹だ。

共に兄妹のように育ち、その行く末を案じたが銀と恋に落ち、人としての寿命を前に病に伏して若くして亡くなり、その後銀は若葉が転生するまで待ち続けた。

そして再び夫婦になった。


「お前たちのように絆が深いのは尊敬する。俺もそういう女なら出会いたいものだ」


「朔よ、お前なら選り取り見取りだ。とりあえず会いに行ってみろ」


少しだけ、会いに行く気になった。


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