宵の朔に-主さまの気まぐれ-
気が滅入る話はなるべく早く終わらせる――

朔は祖父母の居場所を確認して雪男に最後の足掻きをして見せた。


「行きたくない」


「はいはい分かる分かる。分かるけどこれ以上話をややこしくさせたくないだろ?ほらしゃんとしろ!髪!寝ぐせついてる!」


一応気を使って上物の濃紺の着物に濃緑の帯の装い、そして外出する時は肌身離さず持っている父から譲り受けた天叢雲――

髪型など容姿はほとんど気にかけたことがないため、雪男がせかせかと世話を焼いて寝ぐせを直してくれた。


「こんな風に世話してくれる嫁さん、見つかるといいなー」


「だからその気はない。お祖母様は一体何人待たせているのやら…」


「良家のお嬢さんばっかだろ?容姿も内面もいい子ばっかだと思うからちゃんと話してみろよ」


…自分より周りが大盛り上がりしているため、逆に朔の士気は下がる一方。

果てしないため息を漏らす朔の後頭部をぽんと叩いた雪男は、見送りに来てくれた朧に手を振った。


「じゃあお前の兄ちゃんに嫁さん見繕ってくるよ」


「よろしくお願いします!」


「…」


もう突っ込む気力もなく、朔が空を駆け上がる。

雪男も遅れずそれについて空を駆け上がると隣に並んで一路祖父母の滞在する集落へと向かう。

近付けば近付くほどどんどん朔の気が滅入り、雪男はなんとか朔の気を盛り上げようと必死になって色々話しかけていたが、悉く、失敗。


「ほら着いたぞ主さま」


「お前が替え玉になって会いに行ってくれ」


「それ一発でばれるやつだから!俺の髪と目の色見ろ!」


集落の入り口でまた深いため息をついた朔がまた雪男に怒られる。


「ほら、しゃんとしろ!傍についててやるから」


それはありがたいのだが…

朔は最後の最後まで早めにこの場を去ろうと考えを巡らせて悪あがきしていた。

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