宵の朔に-主さまの気まぐれ-
凶姫と柚葉は、朔が誰かを伴って部屋に戻って来たためきちんと正座をして客人らしくしていた。
――だが…
特に朔の後ろに居る男はとても怜悧で触れれば切れそうな鋭さを感じて背筋が震えてしまう。
目が見える柚葉はその男――十六夜と目が合うと、額が畳につきそうなほど深く頭を下げた。
「ああそんなに畏まらなくていい。こちらは俺の父で、そちらは祖父母。ちょっと様子を見に来ただけみたいだから気楽にしていて」
「…それでか」
「何がですか?」
ひとり納得した口調で十六夜が座ると朔もそれに続いて座り、腕を組んで深い息をついている十六夜を見つめた。
「息吹がやたら張り切って荷を作っていた。今日中にはこちらに着くだろう」
「ええと…何がですか?」
「娘たちが置いて行った着物や化粧道具やらを箱に詰め込んでいた。…あちらにと」
十六夜がちらりと流し目でふたりを見ると、かたや凶姫はぽかんとしていて、かたや柚葉は緊張してかちこちになっていたため、雪男が軽い笑い声をあげて柚葉の肩を軽く叩いて通り過ぎると、朔の隣に座った。
「いいじゃんもらっとけよ」
「でも…」
「お前たちの事情は詳細までは知らずとも大体は分かっている。…また“渡り”が関わるとは」
「そうですね…ちょっと大ごとになりそうな気がするので話を聞いて下さい」
――朔が詳細を語っている間、凶姫と柚葉は口を挟まずじっと黙っていた。
これは自分たちの話であるはずなのに口を挟まないのは、朔を信頼しているからだ。
その姿勢を十六夜は密かに気に入り、小さく頷いた。
「分かった。できる限りの協力はするが、ひとまずゆっくり休ませてやれ」
「はい」
妖艶な凶姫と可憐な柚葉――
ふたりの狂った運命の歯車は元に戻るのだろうか。
全てを呪う凶姫が願うのは、ただひとつだけ。
あの男を殺したい、と――
――だが…
特に朔の後ろに居る男はとても怜悧で触れれば切れそうな鋭さを感じて背筋が震えてしまう。
目が見える柚葉はその男――十六夜と目が合うと、額が畳につきそうなほど深く頭を下げた。
「ああそんなに畏まらなくていい。こちらは俺の父で、そちらは祖父母。ちょっと様子を見に来ただけみたいだから気楽にしていて」
「…それでか」
「何がですか?」
ひとり納得した口調で十六夜が座ると朔もそれに続いて座り、腕を組んで深い息をついている十六夜を見つめた。
「息吹がやたら張り切って荷を作っていた。今日中にはこちらに着くだろう」
「ええと…何がですか?」
「娘たちが置いて行った着物や化粧道具やらを箱に詰め込んでいた。…あちらにと」
十六夜がちらりと流し目でふたりを見ると、かたや凶姫はぽかんとしていて、かたや柚葉は緊張してかちこちになっていたため、雪男が軽い笑い声をあげて柚葉の肩を軽く叩いて通り過ぎると、朔の隣に座った。
「いいじゃんもらっとけよ」
「でも…」
「お前たちの事情は詳細までは知らずとも大体は分かっている。…また“渡り”が関わるとは」
「そうですね…ちょっと大ごとになりそうな気がするので話を聞いて下さい」
――朔が詳細を語っている間、凶姫と柚葉は口を挟まずじっと黙っていた。
これは自分たちの話であるはずなのに口を挟まないのは、朔を信頼しているからだ。
その姿勢を十六夜は密かに気に入り、小さく頷いた。
「分かった。できる限りの協力はするが、ひとまずゆっくり休ませてやれ」
「はい」
妖艶な凶姫と可憐な柚葉――
ふたりの狂った運命の歯車は元に戻るのだろうか。
全てを呪う凶姫が願うのは、ただひとつだけ。
あの男を殺したい、と――