宵の朔に-主さまの気まぐれ-
要は凶姫は普段目は見えないけれど、心眼の術をつかえば一時的に視力を取り戻すことができる、ということらしい。

その代償として数日は体調を崩して寝込むらしいが…

凶姫はその術を使って“渡り”の男を見ようとはしなかった。

見ても無駄――男に目を奪われて、もう二度と会わないものだと思っていたからだ。


なのに…男は再び現れた。


「ねえ、月って何人兄弟なの?」


「沢山居る。皆各地に散らばっているから集まる時は大抵誰かの祝言とか大切な行事ごとの時だけだな」


「主さまの弟さんはどんな方なんですか?」


「おっとりしていて、飄々としていて掴み所がない。優しくて他者の幸せばかり考えていて…あいつには早く幸せになってほしいんだけど」


そこではたと柚葉と目が合った朔は、ふわりと笑って柚葉をどきっとさせた。


「そういえば、そういうところは輝夜と似ている」


「え…私が…ですか?」


「そう。意外と頑固なところとか、自分より他人を優先させるところとか。ふふ」


くすぐったそうに笑った朔にまたきゅんとしてしまった柚葉は目を逸らして庭を舞う蝶に見惚れるふりをした。

…諦めなければいけない人だと分かっているからこそ、これ以上泥沼にはまるわけにはいかないのだ。


「私に似てるだなんて不器用な方なんですね」


「生き方は不器用かもしれないな。でもすごくいい男なんだ。ちょっと変態だけど」


「ちょっとって…それ結構問題じゃない?変態なんでしょ?」


凶姫に突っ込まれてまた声を上げて笑った朔は、同じように笑っている朧と雪男と息を合わせたようにして口をそろえて一言。


「うん、変態」


三人に変態と言わしめる輝夜という男に少し興味を抱いた柚葉は花が開くように笑って朔たちをほっこりさせた。


「面白い方なんですね。お会いしてみたい」


「きっと会えるよ」


きっと――


< 94 / 551 >

この作品をシェア

pagetop